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Laurie
- 作曲: EVANS BILL

Laurie - 楽譜サンプル
Laurie|楽曲の特徴と歴史
基本情報
ビル・エヴァンス作曲の「Laurie」は、歌詞を持たないピアノ主導のバラード。曲名は最晩年のパートナー、ローリー・ヴァーコミンに捧げられたものとして知られる。初演や正確な作曲年の一次情報は情報不明だが、エヴァンス晩年のレパートリーとして定着し、トリオ編成やソロで頻繁に取り上げられた。穏やかな歌心と精緻な和声運びが核となる作品である。
音楽的特徴と演奏スタイル
主調感をたゆたわせる和声設計が最大の魅力。半音階的な内声進行、代理コードの連続、テンションを含むルートレス・ヴォイシングが多用され、旋律は大きな跳躍と繊細な装飾音で語りかける。序奏では自由なテンポ(ルバート)で主題を提示し、その後はスロー〜ミディアムの4/4で静かに展開する演奏が一般的だ。左手は10度や分散和音で空間を作り、右手はモチーフを微細に変奏して長いフレーズを紡ぐ。ダイナミクスの幅は広いが、過度なクレッシェンドを避け、透明感を保つのが鍵となる。
歴史的背景
エヴァンスは1960年代に確立したロマンティックな語法を、1970年代末にさらに内省的かつ精密な語り口へと結晶化させた。「Laurie」はその到達点を示す一曲で、個人的献呈の性格を帯びると同時に、作曲と即興が無縫に融合した晩年様式の代表例とみなされる。作曲意図や制作プロセスの詳細な記録は情報不明だが、終生の美学—声部の流動性、響きの純度、間合い—が凝縮されている。
有名な演奏・録音
ビル・エヴァンス自身によるスタジオ録音に加え、最終トリオ(マーク・ジョンソン、ジョー・ラバーベラ)とのライヴでも繰り返し演奏されたことが記録で確認できる。代表的な参照音源として、アルバム『We Will Meet Again』(1979)の収録版が知られる。編成はピアノ・トリオが基本だが、ソロ・ピアノでも成立し、各演奏で内声処理やエンディングの和声選択に解釈の幅が現れる。
現代における評価と影響
今日ではピアニスト志望者の分析課題として取り上げられることが多く、コード進行のボイスリーディング、主旋律のレガート処理、弱声量でも説得力を保つタッチ設計など、エヴァンス流の核心を学ぶ格好の素材と評価される。大規模なポップ・カバーや映画使用の情報は乏しいが、ジャズ界では静かな名曲として演奏機会が絶えない。
まとめ
「Laurie」は、言葉を介さずに情念を伝えるエヴァンス流抒情の粋であり、和声と間合いの美を学ぶ上で外せない一曲だ。初出の細部は情報不明ながら、録音を聴き比べ、各奏者の内声処理と音色設計の違いを味わうことで、作品の奥行きが一層明らかになる。