Fugue For Tinhorns
- 作曲: LOESSER FRANK

Fugue For Tinhorns - 楽譜サンプル
Fugue For Tinhorns|歌詞の意味と歴史
基本情報
Fugue For Tinhornsは、作曲家・作詞家フランク・ロウザー(Frank Loesser)が手がけたブロードウェイ・ミュージカル『ガイズ&ドールズ』(1950年初演)の冒頭付近を彩る三重唱ナンバー。タイトルの“Fugue”は厳密な古典的フーガではなく、異なる歌詞線が追いかけ合う対位法的な掛け合いを指す。舞台上では賭博師のニセリー=ニセリー、ベニー、ラスティの三人が、街角で競馬談義を繰り広げながら歌う構成で、作品世界のテンポ感と登場人物のキャラクターを鮮烈に提示する。映画版(1955年)でも知られる定番曲で、以後の上演や録音で繰り返し取り上げられてきたショー・チューンである。
歌詞のテーマと意味
“Tinhorn”は米俗語で、はったりや小遣い稼ぎの博打打ちを揶揄する言い回し。歌詞は、三人がそれぞれ「確かな筋」を持っていると主張し、競馬の本命や買い目を自信満々に語る様子を描く。互いの台詞が独立しつつ同時進行で重なり、聞き手は性格の違いや価値観のズレを一度に把握できる。内容自体は軽妙なギャンブル談義だが、実際には都市のスラングと機知を通して、登場人物の生態とコミュニティのルールを凝縮して見せる役割を担う。全文引用は控えるが、機転の利いた韻や反復が、街の喧騒と登場人物の自負心を巧みに表象している。
歴史的背景
『ガイズ&ドールズ』はデイモン・ラニアンの短編群を原作に、戦後ブロードウェイ黄金期の只中で誕生。ロウザーは日常語のリズムと言い回しを音楽に織り込む名手で、本曲でも多声的な書法とスウィング感を融合し、物語導入を一気に加速させた。三重唱で性格付けを行う手法は、オペレッタ的伝統を引き継ぎつつ、アメリカ的スナップと都会的ユーモアで刷新されている。結果として、この曲は作品全体のトーン—粋で、機知に富み、街的であること—を観客に即時伝達する、機能性の高いオープニング・アンサンブルとなった。
有名な演奏・映画での使用
初演時のブロードウェイ・キャスト録音、続く各種リバイバル・キャスト録音、さらに1955年の映画版サウンドトラックが代表的な参照源として広く聴かれてきた。三重唱の妙味は合唱・アカペラ編成にも適合し、学校やコミュニティ・シアター、コンサートでの抜粋上演も多い。編曲ではテンポや転調、掛け合いの入り方を微調整し、台詞的ニュアンスを強調するスタイルが一般的。映画での使用位置やシーン演出は上演版により差異があるが、三人の賭博師がテンポ良く歌い交わす基本構図は不変である。
現代における評価と影響
Fugue For Tinhornsは、ミュージカルにおけるアンサンブル書法の教科書的例として評価される。個別の台詞線が調和しつつ衝突する構造は、人物造形と物語推進を同時に達成する手腕の証左で、音大や演劇学校でも分析対象となることが多い。上演現場では、三人の間合い・滑舌・タイム感が勝負どころで、演出や振付が緻密な呼吸合わせを求める。録音市場ではショー・チューンの定番として継続的に流通し、ジャズ寄りのリズム・アプローチやコメディ的解釈など、多様な読み替えを生み続けている。
まとめ
軽妙な競馬談義を三重唱の対位法で描き切る本曲は、言葉と音楽の結び付きを示すロウザーの代表例。『ガイズ&ドールズ』の世界観を一瞬で提示し、以後の展開へ観客を誘う装置として機能する。舞台・映画・録音の各メディアで愛され、現代でも演奏・研究対象として存在感は健在だ。歌詞の機知、アンサンブルの精緻さ、都会的スウィングの三拍子が揃い、ショー・チューンの醍醐味を凝縮したナンバーと言える。