I Got Lost in His Arms
- 作曲: BERLIN IRVING

I Got Lost in His Arms - 楽譜サンプル
I Got Lost in His Arms|楽曲の特徴と歴史
基本情報
I Got Lost in His Arms は、アーヴィング・バーリンが作曲・作詞した楽曲で、1946年初演のブロードウェイ・ミュージカル『アニーよ銃を取れ(Annie Get Your Gun)』で発表されたバラード。初演では主役アニー役のエセル・マーマンが歌い、のちに1950年の映画版でも使用され、ベティ・ハットンが歌唱したことで幅広い聴衆に浸透した。ミュージカル文脈のみならず、アメリカン・ソングブックの一曲として独立して取り上げられることも多く、舞台、コンサート、レコーディングで長く愛されている。
音楽的特徴と演奏スタイル
穏やかなテンポの抒情的なバラードで、歌詞の語り口を生かす流線的なメロディが特徴。フレーズの呼吸やルバートを活かした表現が映え、ヴォーカルのレガートとニュアンス作りが重要となる。ジャズの現場では、ピアノ・トリオやギターを基調とした小編成で親密に歌われるほか、弦楽を伴うオーケストレーションでも相性が良い。即興は控えめでも、イントロや間奏に短いアドリブを挿し込むアプローチが一般的で、テキストの意味を損なわない“語るような”フレージングが求められる。
歴史的背景
第二次世界大戦後のブロードウェイ黄金期に生まれた『アニーよ銃を取れ』は、バーリンの職人的手腕が冴える代表作の一つ。本曲は、主人公アニーがフランク・バトラーへの恋心に気づき、戸惑いと高揚を同時に抱く心理を見つめる場面で歌われる。作曲と作詞を単独で担ったバーリンは、舞台上の物語進行と人物像に即した言葉運びと旋律を緊密に結び付け、後年まで通用する普遍的なラブ・ソングとして結晶させた。
有名な演奏・録音
初演キャストによるエセル・マーマンの歌唱は、この曲の解釈の礎となった記録的名演。映画版ではベティ・ハットンが伸びやかな歌声で印象を残し、作品の人気をさらに後押しした。ブロードウェイ再演でもたびたび取り上げられ、1999年のリバイバルではバーナデット・ピーターズがキャスト録音でこの曲を残している。舞台歌手やミュージカル専門歌手のリサイタルでも定番の一曲としてプログラムに組み込まれることが多い。
現代における評価と影響
I Got Lost in His Arms は、物語性と普遍的な恋の情感が融合したナンバーとして、ミュージカル・レパートリーはもちろん、ジャズ・ヴォーカルの場でも取り上げられる。声楽やミュージカルの教育現場では、発声・レガート・テキスト表現を総合的に磨ける教材として扱われることがある。コンサートや録音で継続的に紹介され、アメリカン・ソングブックの豊饒さを示す一例として評価が定着している。
まとめ
『アニーよ銃を取れ』から生まれた本曲は、言葉と旋律が寄り添うバラードの妙味を体現する一篇。舞台と映画の双方で支持を得てきた歴史が、その普遍性を裏付ける。歌詞の意味を丁寧に届ける解釈と、控えめながら滋味深い伴奏が出会うとき、楽曲は最も美しく響く。