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Pick Yourself Up

  • 作曲: KERN JEROME
#スタンダードジャズ
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Pick Yourself Up - 楽譜サンプル

Pick Yourself Up|楽曲の特徴と歴史

基本情報

Pick Yourself Upは、作曲家ジェローム・カーンと作詞家ドロシー・フィールズの名コンビによる1936年発表の楽曲。初出はフレッド・アステアとジンジャー・ロジャース主演の映画『有頂天時代(Swing Time)』で、アステアが歌い踊るシーンで広く知られるようになった。歌詞は挫折からの立ち直りを促す前向きなテーマで、明快な励ましのメッセージが時代を超えて支持される。形式はジャズで典型的な32小節AABA。スウィングのリズムに乗せて、ヴォーカル曲としてもインストゥルメンタルとしても定着している。現在ではアメリカン・ソングブックの柱のひとつとして、多くのジャズ教育現場やセッションでも定番曲だ。

音楽的特徴と演奏スタイル

AABAの各セクションは明確なフレーズ構造を持ち、覚えやすい旋律線と心地よいシンコペーションが特徴。コード進行はii–V–Iやセカンダリー・ドミナントを要所に配し、アドリブに入りやすい和声設計になっている。テンポはミディアムからアップ・スウィングで演奏されることが多く、軽快さと推進力が要。ヴォーカルはリズムのはねを活かしたタイム感と、語りかけるようなニュアンスづけが決め手。インスト演奏では、シンプルなテーマからハーモニック・バリエーションやモチーフ開発へ展開しやすく、ソロ回しにも適した構成だ。

歴史的背景

1930年代半ば、ハリウッドのミュージカル黄金期に生まれた本曲は、映画とポピュラー音楽が密接に結びついた時代精神を体現する。『有頂天時代』では本曲を含む複数のカーン=フィールズ作品が用いられ、同作中の“The Way You Look Tonight”はアカデミー歌曲賞を受賞している。Pick Yourself Up自体は受賞曲ではないが、映画のダンス・ナンバーとして爆発的な認知を得て、楽曲単体でも広く歌い継がれた。第二次大戦前後にジャズ・バンドや歌手がレパートリーに取り込み、ラジオやレコードを通じて一気にスタンダード化していった。

有名な演奏・録音

最初期の代表は映画版のフレッド・アステアによる歌唱。後年はエラ・フィッツジェラルドが『Ella Fitzgerald Sings the Jerome Kern Songbook』(1963)で洗練されたスウィング解釈を提示し、名演として知られる。現代ではダイアナ・クラールが『When I Look In Your Eyes』(1999)でスタイリッシュなアレンジを披露し、新世代のリスナーにも届いた。ビッグバンドから小編成コンボ、ソロ・ピアノに至るまで多彩な編成で録音が存在し、ジャンル横断的にカバーされ続けている。映画以外での具体的なタイアップ使用は情報不明。

現代における評価と影響

本曲は、スウィング・フィールの基礎、AABA構成の理解、歌詞とグルーヴの融合といった学習要素を網羅する教材曲としても重宝される。明るい励ましのメッセージは時代を問わず共感を呼び、コンサートのオープナーやアンコールにも適するため、プロ・アマ問わず選曲率が高い。多くの標準譜集やリードシートに収録され、ジャム・セッションの共通言語として定着。結果として、アメリカン・ソングブックの普遍性とジャズの即興文化をつなぐ重要曲として位置づけられている。

まとめ

Pick Yourself Upは、映画発の名曲として誕生し、ジャズ・スタンダードとして成熟した稀有な一例である。明快な構成と前向きなテーマは、演奏者に創造性の余地を与え、聴き手には軽やかな高揚感をもたらす。今後も教育・舞台・録音の現場で長く息づいていくだろう。