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September Song
- 作曲: WEILL KURT

September Song - 楽譜サンプル
September Song|楽曲の特徴と歴史
基本情報
「September Song」は、作曲カート・ワイルがブロードウェイ・ミュージカル「Knickerbocker Holiday」のために書いた楽曲。初演は1938年、作詞はマクスウェル・アンダーソン。劇中ではウォルター・ヒューストンが年老いた総督ピーテル・スタイヴサントとして歌い、のちに舞台の枠を超えて広く知られるようになった。秋を想起させるタイトルと、人生の円熟を思わせる内容が結びつき、ポピュラーとジャズ双方のレパートリーに定着した。
音楽的特徴と演奏スタイル
32小節のAABA形式を核とするバラードで、中低域に寄る旋律線が豊かな陰影を生む。和声は副属和音や拡張和音を効果的に用い、半音階的接近や順次進行が時間の移ろいを感じさせる。テンポは緩やかで、前奏をルバートで置く解釈、弱いスウィング・フィール、ボサノヴァ風の軽いグルーヴなど多様な演奏が成立。ヴォーカルでは語り口を重視したレガートと細やかなダイナミクスが映え、器楽演奏では長い息のフレーズ設計と柔らかなアタックが効果的だ。
歴史的背景
ワイルはドイツから米国へ渡った作曲家で、アンダーソンとの協働で政治風刺を含む舞台作品を手がけた。「September Song」は、人生の晩年に差しかかる人物の心情を描く挿入歌として誕生し、当時のブロードウェイで特異な叙情性と端正な構成を示した。ミュージカル公開後、ラジオやレコードを通じて人気が広がり、ジャズ・ミュージシャンにも取り上げられてスタンダード化。ヨーロッパ的洗練とアメリカの歌心が同居する点が評価された。
有名な演奏・録音
初演者ウォルター・ヒューストンの録音は素朴で味わい深く、作品の原像を伝える。その後、フランク・シナトラが比類ないフレージングで解釈し、ウィリー・ネルソンはアルバムで温かなカントリー寄りの響きを与えた。加えて、名ジャズ・ヴォーカリストやビッグバンド、小編成コンボまで、多様な形で名演が残る。各演奏はテンポ設定やイントロの作り、ターンアラウンドの置き方で個性を競い、曲の包容力を示している。具体的な採譜やキーは演者により幅がある。
現代における評価と影響
ブロードウェイ出自ながら、ジャズの語法で磨かれた本曲は、年代やジャンルを超えて歌い継がれている。成熟や回想をテーマにしたコンサートの定番であり、映画的な抒情を持つため映像・舞台の挿入曲としても相性がよい。教育・研究の場では、言葉のアクセントと和声進行の整合、AABA形式における対比の作り方など、作曲・編曲・歌唱の教材として価値が高い。新録音でも編成や音響の工夫によって新たな聴き味が提示され続けている。
まとめ
「September Song」は、簡潔な形式に深い情緒を宿す名曲。カート・ワイルの独自性と普遍的なテーマが結び付き、ポップとジャズの橋渡しを果たした。舞台由来の確かなドラマ性、柔軟な解釈を許す和声設計、歌詞と旋律の親和性が、今もなお演奏者と聴き手を惹きつける理由である。歌い手は語りと歌のバランス、奏者は呼吸感と音色の設計に意識を置くことで、本曲の魅力を一層引き出せるだろう。