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Serene
- 作曲: DOLPHY ERIC

Serene - 楽譜サンプル
Serene|楽曲の特徴と歴史
基本情報
Serene はエリック・ドルフィー(Eric Dolphy)が作曲したインストゥルメンタル曲。初出はPrestigeからのアルバム『Out There』に収録され、ドルフィーの初期代表作として知られます。同作の録音は1960年で、編成はアルトサックス/バスクラリネット/フルートのドルフィーに、ロン・カーター(チェロ)、ジョージ・デュヴィヴィエ(ベース)、ロイ・ヘインズ(ドラム)というピアノレスのクァルテット。タイトルどおり静謐さを感じさせる主題と、陰影に富むハーモニー運びが核となり、ドルフィー流の先鋭性とリリシズムが共存する楽曲です。歌詞は存在せず、純粋な器楽曲として演奏されます。
音楽的特徴と演奏スタイル
Serene の主題は、ドルフィー特有の広い音程跳躍と半音階的な動きが交錯するメロディで、静かなテンポでも緊張感が途切れません。ピアノを欠く編成により、和声の「空白」が生まれ、チェロとベースが対旋律やペダルトーンで空間を支えます。この開放的な響きは、ソロイストに自由度の高いライン構築を促し、内省的でありながら前衛的なフレージングを可能にします。ドルフィーはアルトサックスやバスクラリネットで音色を切り替え、低音域のダークな質感から鋭利な高音までを使い分け、モチーフの変形やリズムのズラしによって主題を拡張。リズム・セクションはスウィングの推進力を保ちつつ、細やかなダイナミクスで呼応します。
歴史的背景
1960年前後のニューヨークは、ビ・バップ以降の語法を起点に、ポスト・バップ、モード、フリーの要素が接続されつつあった時期。ドルフィーはチャールズ・ミンガスらとの活動を通じ、強靭な即興語法と作曲観を獲得し、Prestigeでのリーダー作群(『Outward Bound』『Out There』など)でその個性を結晶化させました。Serene は、強烈な前衛性に直結するのではなく、静的な情感と探究心を同居させた一曲として位置づけられ、当時の新潮流がもつ「構造の開放」と「メロディの詩情」を橋渡しする役割を果たしています。
有名な演奏・録音
基準となるのは『Out There』収録のオリジナル録音で、ドルフィー、ロン・カーター(チェロ)、ジョージ・デュヴィヴィエ、ロイ・ヘインズの相互作用が楽曲の魅力を最大化しています。以降、後続のジャズ・ミュージシャンにより再演され、レパートリーとして取り上げられることがありますが、網羅的なディスコグラフィーは情報不明です。いずれにせよ、主題の簡潔さと即興余地の広さにより、演奏者の語法や編成の違いがそのまま音像の差異として現れる点が、再演価値の高さにつながっています。
現代における評価と影響
Serene は、ドルフィー作品の中でも学習価値が高い楽曲として、アドリブ研究やアンサンブル教育の題材に用いられることがあります。ハーモニーが過度に規定されていない分、音色、対位法的なライン、間合いの使い方が問われ、プレイヤーの個性が反映されやすいのが魅力。現代ジャズにおけるピアノレス編成や、弦楽器を含むコンボ編成の模索にも示唆を与え、メロディと空間処理の両立という観点で今も参照点となっています。
まとめ
Serene は、静謐な主題と開放的な和声空間、そしてドルフィーの独創的語法が結びついた名曲です。『Out There』の録音を軸に、ピアノレス編成が生む余白と対旋律の妙、そして音色の多様性に耳を傾けることで、楽曲の核心に近づけます。資料的情報の一部は情報不明ながら、ジャズ・スタンダードとしての生命力は揺るがず、今なお演奏家とリスナーの想像力を刺激し続けています。