アーティスト情報なし
Sorcerer
- 作曲: HANCOCK HERBIE

Sorcerer - 楽譜サンプル
Sorcerer|楽曲の特徴と歴史
基本情報
『Sorcerer』は、ハービー・ハンコックが作曲したインストゥルメンタル楽曲。一般には“The Sorcerer”の表記で知られ、初出は1967年発表のマイルス・デイヴィスのアルバム『Sorcerer』収録トラックとして位置づけられる。歌詞は存在せず、作詞者は情報不明。編成は当時のクインテット編成(トランペット、サックス、ピアノ、ベース、ドラム)で録音され、ハンコックはピアノで参加している。タイトル通り、神秘的で含みのあるサウンド・デザインが核となる。
音楽的特徴と演奏スタイル
和声は機能和声の枠に留まらず、サスティン系のテンションや曖昧なモーダル感を活用。ハンコック特有のクォータル(4度堆積)を想起させる開放的なヴォイシングが、テーマのミステリアスな輪郭を強調する。リズムは直線的なスウィングに終始せず、ドラムとベースがダイナミクスと間で推進力を作ることで、漂うような“浮遊感”を形成。テーマ提示後の即興では、過度な技巧誇示を避け、相互作用の密度で緊張と解放を描くのが典型的だ。全体として陰影に富む質感が保たれ、音数より余白の美学が際立つ。
歴史的背景
1960年代後半、マイルス・デイヴィス第2期クインテット(マイルス、ショーター、ハンコック、カーター、トニー・ウィリアムス)は、E.S.P.~Nefertiti期にかけて、ポスト・バップ以後の語法を拡張した。その文脈で生まれた『Sorcerer』は、従来のコード進行中心の発想から、音色・間合い・集合即興を重視する美学へと踏み出した証左といえる。アルバムのコンセプトとも呼応し、抽象度の高い作曲とアンサンブル運用が、当時のスタジオ作品の中でも際立っている。
有名な演奏・録音
基準となる代表的録音は、1967年のマイルス・デイヴィス『Sorcerer』収録版である。同作は長年にわたり再発され、主要サブスクリプションでも聴取可能。以後の再演や別テイクの網羅情報は情報不明だが、同時代のスタジオ録音はボックス・セット等で体系的に振り返られており、該当期のまとめ聴きでも本曲の位置づけが把握しやすい。ハンコック自身のリーダー作での再録に関しても情報不明。
現代における評価と影響
『Sorcerer』は、ポスト・バップ以降の語法を学ぶ上で示唆に富む素材として評価される。特に、ハーモニーを“濃く語る”のではなく、音色とスペースで物語る発想は、多くのミュージシャンに影響を与えてきた。実演ではテンポ設定やダイナミクスの幅を大きく取り、アンサンブルの聴覚的焦点を変化させる手法がしばしば参照点となる。教育現場や分析でも、ハンコック的ヴォイシングとインタープレイの好例として扱われることがある。
まとめ
『Sorcerer』は、ハービー・ハンコックの作曲術とマイルス第2期クインテットの審美を濃縮した一曲である。調性を曖昧化しつつも歌心を失わないテーマ、間合いを活かす即興、響きの配置が生む神秘性が魅力だ。初めて聴くなら、まずは1967年録音を基準に、演奏の呼吸とサウンドの陰影を感じ取ると良い。本曲の詳細な作詞情報や後年の再演履歴は情報不明だが、その音楽的価値は現在も揺るがず、ジャズ史の重要な節目を伝える証言として聴き継がれている。