St. Louis Blues
- 作曲: HANDY WILLIAM C

St. Louis Blues - 楽譜サンプル
St. Louis Blues|楽曲の特徴と歴史
基本情報
「St. Louis Blues」はHANDY WILLIAM C(W. C. Handy)による1914年の作品。作詞・作曲はW. C. Handy自身で、ブルースを全米に広めた代表的楽曲として知られる。楽譜出版を起点にダンスバンドやジャズの現場へ浸透し、ボーカル曲としても器楽曲としても広く演奏され、現在は定番のジャズ・スタンダード。歌詞は失恋と嘆き、都会の孤独を主題とするが、本文では歌詞全文は扱わない。別題「Saint Louis Blues」。
音楽的特徴と演奏スタイル
最大の特徴は、12小節ブルースと短調16小節の中間部(ハバネラ/タンゴ風リズム)の組み合わせという複合形式にある。ブルース由来のAAB型フレーズ、ブルーノート、コール&レスポンスを土台に、ハバネラのシンコペーションが「スペインの香り」をもたらし、同時代のラグタイム~初期ジャズの語法と結びつく。テンポはスロー・ブルースからスウィング、さらにはマーチ的アレンジまで幅広く、ヴォーカルではポルタメントやゴスペル的ターン、管楽器ではミュート/プランジャー奏法など表情豊かな解釈が映える。
歴史的背景
1910年代、楽譜産業とダンス文化の隆盛は、地域音楽だったブルースを都市へと押し上げた。W. C. Handyは「ブルースの父」と称され、出版を通じて黒人音楽の語法を可視化・定式化し、広範な受容を促進。本作に見られるハバネラの導入は、ニューオーリンズ系ジャズで語られる「スペインの香り」の普及とも響き合い、アメリカ音楽におけるリズム語彙の拡張に寄与した。
有名な演奏・録音
決定的名演として、1925年のベッシー・スミスによる録音(コルネットはルイ・アームストロング)が挙げられる。その後もアームストロングは自身のバンドで繰り返し取り上げ、デューク・エリントン楽団などスウィング期の大編成にも不可欠のレパートリーとなった。第二次大戦期にはグレン・ミラー陸軍航空軍バンドが「St. Louis Blues March」として編曲し、マーチ/吹奏楽の定番に。さらに1929年の短編映画「St. Louis Blues」ではベッシー・スミスが自演し、映像の記録としても重要である。
現代における評価と影響
本作は、ブルースの三和音進行とハバネラ中間部という二つの言語を一曲に融合した教材的価値が高く、ジャム・セッションや音楽教育で頻繁に扱われる。ヴォーカル、スモールコンボ、ビッグバンド、吹奏楽まで適応可能な柔軟性は、スタンダードとしての生命力を裏づける。多様な世代・ジャンルの演奏家に継承され、アメリカ都市文化とブルースのイメージを結びつけた象徴曲として評価が定着している。
まとめ
「St. Louis Blues」は、12小節ブルースとハバネラ中間部を融合した卓抜な設計により、地域音楽だったブルースを普遍的語法へと押し広げた金字塔である。名演の蓄積と多面的な編曲可能性により、100年以上を経ても演奏現場で生き続ける、ジャズ・スタンダードの中核的存在と言える。