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It's Tight Like That

  • 作曲: DORSEY TOMMY (JUN),WHITTAKER HUDSON
#ジプシージャズ#スタンダードジャズ
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It's Tight Like That - 楽譜サンプル

It's Tight Like That|楽曲の特徴と歴史

基本情報

「It's Tight Like That」は、Hudson Whittaker(Tampa Red)とThomas A. Dorsey(Georgia Tom)による1928年のヒット曲。作曲者表記はDORSEY TOMMY (JUN), WHITTAKER HUDSON。ホーカム・ブルースを象徴する一曲で、軽妙な掛け合いとダブル・ミーニングのユーモアで知られる。12小節ブルースの定型に沿いながら、口上やアドリブ的なやり取りが組み込まれ、当時のダンス・フロアやジュークジョイントで人気を博した。歌詞の全文は割愛するが、成人向けの含意を匂わせつつ下品に流れない節度が評価され、戦前ブルースの定番として広く親しまれている。初出レーベルはVocalion、初出年は1928年とされる。

音楽的特徴と演奏スタイル

基盤は12小節ブルース。テンポは中庸からやや速めで、シャッフル感のあるビートが快活な推進力を生む。ボーカルは男女または二者のコール&レスポンス的掛け合いが要で、台詞回しのようなフレーズの受け渡しが聴きどころ。ギターはスライド奏法を交えたリフが反復され、合いの手的なフィルで歌詞のニュアンスを補強する。メロディにはブルーノートが多用され、語り口調の節回しがユーモアを強調。全体としてシンプルだが、間合いとアクセントの付け方により、即興性と演芸的な楽しさを両立させている。

歴史的背景

1920年代後半のシカゴでは、レース・レコード市場が拡大し、都市型ブルースが隆盛。ホーカム・ブルースは洒落と色気を織り交ぜた娯楽性で人気を獲得し、その中心に「It's Tight Like That」があった。Georgia Tomとして活動していたThomas A. Dorseyは後年ゴスペルの父として知られるが、本作期は世俗曲の名手。Tampa Redは洗練されたギターワークと明朗な歌心で、都市のナイトライフを映す音楽像を築いた。本曲の成功は、ブルースが酒場やダンスの現場からレコード産業へと拡大していく転換点を示すものでもある。

有名な演奏・録音

代表的なのはTampa Red & Georgia Tomによる1928年Vocalion録音。以降、同趣向の続編(通称“〜No.2”“〜No.3”など)が作られ、モチーフの言い回しや応酬パターンが変奏された。戦前から戦後にかけて、複数のブルース歌手やジャグ/スキッフル系のアンサンブルが取り上げ、舞台芸やラジオ向けの短縮版も流通。レコード復刻や戦前ブルースのアンソロジーにも収録されることが多く、アコースティック・ブルースのレパートリーとして現在も演奏されている。

現代における評価と影響

本作はホーカム・ブルースの定型を確立した重要曲として位置づけられる。軽快な12小節構造、ダブル・ミーニングの語り、掛け合いの舞台性は、その後のコミカルなブルースやR&Bのノヴェルティ曲にも継承。アコースティック・セッションでは、観客とのインタラクションを生む教材曲として好まれる。Thomas A. Dorseyが後年ゴスペルへ大転換した事実も相まって、世俗と宗教の両極を架橋する作家像を語るうえで欠かせない参照点となっている。研究・教養の文脈でも頻繁に取り上げられ、歴史的価値は揺るぎない。

まとめ

「It's Tight Like That」は、洗練された掛け合いと機知に富む表現で1920年代末の都市型ブルースを象徴した名曲である。単純な構造の中に、間の妙と語りの技法が凝縮され、今日までスタンダードとして生命力を保ち続けている。演奏者にとっては即興性とステージクラフトを磨く格好の素材であり、聴き手にとっては戦前ブルースの楽しさと奥行きを体感できる入口となる。