Mooche, The
- 作曲: ELLINGTON DUKE,MILLS IRVING

Mooche, The - 楽譜サンプル
Mooche, The|楽曲の特徴と歴史
基本情報
1928年に発表されたデューク・エリントンとアーヴィング・ミルズの共作。「Mooche, The」は目録上の並び替えで、一般には“The Mooche”として知られる。主としてインストゥルメンタルで、正式な歌詞の有無は情報不明。初演・初録音はエリントン楽団で、以後も長くレパートリーに残された。
音楽的特徴と演奏スタイル
エリントン初期の“ジャングル・サウンド”を体現。ワウワウ・ミュートとグロウル奏法のトランペット、官能的なクラリネット、低音リフの執拗な繰り返しが醸す妖艶さが核だ。マイナー調と半音階的な進行、ハバネラ風の揺れ、ダイナミクスの細やかなコントロールにより、夜の気配をたたえたムードが生まれる。
歴史的背景
本作はニューヨークのコットン・クラブ常設期に書かれ、舞台ショウの要求に応えるための劇的効果と音色設計が重視された。エリントンは個々のメンバーの音色を“素材”として扱い、編曲で新たな語彙を切り拓いた。The Mooche はその過程を象徴する代表作として位置づけられる。
有名な演奏・録音
最初期の1928年録音が礎となり、1930年代以降もエリントンは再録音やライヴで継続的に取り上げた。各時代のソリストが個性を刻み、アドリブ構成やテンポ感にも多様な解釈が見られる。エリントン楽団以外にも多数のビッグバンドやコンボが録音を残すが、網羅的なディスコグラフィはここでは情報不明。
現代における評価と影響
管ミュート技法、対位法的セクション配置、低音オスティナートの使い方は、今日までビッグバンド作編曲の教科書として参照される。妖艶なマイナー感とクリアなリフ構造の両立は、スウィングからモダンに至る幅広い作曲家・奏者に影響を与え、スタンダードとしての地位を確立した。
まとめ
初期エリントンの審美を凝縮した The Mooche は、楽器の表情を作曲の核心に据えた革新性で今なお魅了する。劇場性と即興性の均衡、音色のドラマを学ぶのに最適の一曲であり、ジャズ・オーケストラ表現の可能性を広げた歴史的名作と言える。