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Panama

  • 作曲: TYERS WILLIAM H
#ジプシージャズ#スタンダードジャズ
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Panama - 楽譜サンプル

Panama|楽曲の特徴と歴史

基本情報

Panamaは、アフリカ系アメリカ人作曲家ウィリアム・H・タイアーズ(William H. Tyers)による1912年の作品。別名「Panama Rag」とも呼ばれ、ラグタイム期のツーステップ/マーチ系の性格を持つ器楽曲である。歌詞は付されておらず、作詞者情報は情報不明。初期ジャズの重要レパートリーとして、トラッド/ディキシーランド系バンドで広く演奏されてきた。出版当初はダンス音楽としての実用性が高く、ピアノ独奏や小編成バンド用のアレンジが流通し、後のニューオーリンズ・スタイルの合奏美学と結び付いて今日の定番化につながった。

音楽的特徴と演奏スタイル

本曲はラグタイム由来の多ストレイン構成と、ツー・ビートの推進力が核。メロディは明快で、前打音やシンコペーションを要所に配し、踊れる躍動感を生む。演奏現場ではコルネット(またはトランペット)、クラリネット、トロンボーンのフロントと、バンジョー/ギター、ピアノ、チューバ(またはベース)、ドラムによるリズム隊が典型。全体合奏でテーマを呈示し、コーラスごとにアドリブや対位法的な絡みを発展させる“コレクティヴ・インプロヴィゼーション”が映える。ブレイクの挿入や、テンポをやや速めに設定する解釈も多く、編成やアレンジに応じて繰り返し回数や間奏の扱いを柔軟に変えるのが慣例である。

歴史的背景

1910年代初頭のアメリカは、ラグタイムからダンス音楽へ、さらに初期ジャズへと接続する過渡期にあった。Panamaはそうした時代感覚を体現する作品で、行進曲的な明快さとラグのシンコペーションを兼ね備える。タイトルの由来については情報不明だが、当時はパナマ運河建設が話題となっており、流行や風俗と結び付く名称が多かったことは事実である。本作は出版譜を足掛かりに各地のダンスホールやバンドへ広がり、のちにニューオーリンズ由来の集団即興語法と結び付いて“ジャズ標準曲”として定着した。

有名な演奏・録音

戦後のニューオーリンズ・リバイバル期に再評価が進み、Lu Watters’ Yerba Buena Jazz Bandなど伝統派バンドの録音が広く知られる。以降、トラッド・ジャズのライヴやフェスティバル、教育現場のアンサンブルでも頻繁に取り上げられ、各バンドが独自の編曲やブレイクを加えて個性を競った。録音年や媒体の詳細はレーベルや版によって多岐にわたるため一括の特定は情報不明だが、同曲は長年にわたり世界各地のトラッド・ジャズ・シーンで継続的に録音・演奏されている。

現代における評価と影響

Panamaは、初学者にも把握しやすい明快な主題と、合奏で映える対位法的絡みが両立するため、セッションの定番として重宝される。拍の押し出しが明確で、各パートの役割が可視化されやすいことから、アンサンブル教育の教材としても適している。トラッド系バンドのレパートリーとしてだけでなく、ラグタイムやアーリー・ジャズの文脈を紹介するコンサートでも選曲されることが多く、歴史的スタイルの再現や、現代的アレンジによる再解釈の両面で価値を保ち続けている。

まとめ

ウィリアム・H・タイアーズ作曲のPanamaは、ラグタイムとツーステップの要素を核に、ニューオーリンズ的合奏美学と結び付いてジャズ標準曲化した器楽曲である。構造のわかりやすさと演奏の自由度が共存し、時代を超えて現場で息長く愛されてきた。タイトル由来や細部の初演情報は情報不明な点もあるが、1912年に生まれたこの楽曲が、現在も世界のトラッド・ジャズ・シーンで生きたレパートリーとして機能していることは疑いない。