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Si Tu Vois Ma Merè

  • 作曲: BECHET SIDNEY JOSEPH
#ジプシージャズ#スタンダードジャズ
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Si Tu Vois Ma Merè - 楽譜サンプル

Si Tu Vois Ma Merè|楽曲の特徴と歴史

基本情報

Si Tu Vois Ma Merèは、サクソフォン/クラリネット奏者シドニー・ベシェ(Sidney Bechet)が作曲した器楽曲。フランス語題は一般に「Si Tu Vois Ma Mère」と表記される。歌詞を伴わない演奏が通例で、ベシェの円熟期を象徴するメロディ重視のナンバーとして知られる。初演年・初出盤の詳細は情報不明。ベシェのソプラノ・サックスの表現力を堪能できる代表曲として、ジャズ・スタンダードの一角に位置づけられている。

音楽的特徴と演奏スタイル

穏やかで郷愁を帯びた主題が特徴。伸びやかな旋律線に深いビブラートと微細なポルタメントを交え、呼吸感のあるフレージングで歌い上げるのが定石だ。小編成コンボでの演奏が多く、リズム・セクションは控えめに脈動を刻み、主旋律の余韻を生かす。派手なアドリブよりもテーマの解釈と音色表現が比重を占め、音価の伸縮やルバートを通じて情感を磨くアプローチが映える。シンプルな和声進行ゆえ、音色と間合いの美学が問われる楽曲である。

歴史的背景

ベシェはニューオーリンズ出身で、戦後はフランスで人気を博し晩年を欧州で過ごした。本作もフランス語題で広く親しまれ、彼の国際的評価を裏付けるレパートリーの一つとなった。作曲経緯や初演に関する一次情報は情報不明だが、渡欧後の活動期に定着したレパートリーとして認知され、ジャズがアメリカ南部のルーツを保ちながら欧州文化圏で再解釈されていく流れを映す作品でもある。

有名な演奏・録音

基準となるのはシドニー・ベシェ自身の録音。艶やかなソプラノ・サックスの音色が、曲の哀愁と温かさを同時に映し出す。後年は多くのジャズ奏者に取り上げられているが、網羅的なディスコグラフィーは情報不明。映画ではウディ・アレン監督『ミッドナイト・イン・パリ』(2011)のオープニングに用いられ、世界的に再注目された。この使用例により、ジャズ・ファン以外にも曲名と旋律が広く浸透した点は見逃せない。

現代における評価と影響

軽やかな都会性と古き良きジャズの香りを併せ持つ本曲は、カフェ・サウンドから映画音楽文脈まで幅広く支持されている。ジャム・セッションで頻繁に演奏されるタイプではないが、音色と歌心を学ぶ教材として演奏家の信頼が厚い。タイトルが喚起する母への思慕という情感と、時代を超える旋律の普遍性が共鳴し、世代や国境を越えて共感を呼び続けている。配信時代でもプレイリスト常連の定番曲となっている。

まとめ

Si Tu Vois Ma Merèは、技巧を誇示せず旋律の語り口で魅せるジャズの美点を凝縮した一曲である。詳細な成立年は情報不明ながら、ベシェの自演と映画での起用を契機に、時代を超えて聴き継がれている。静謐な情緒と温もりが共存する音世界は、入門者にも通好みにも訴求力が高い。ベシェの表現の核心、すなわち“音色で語る”という美学を実感できる定番ナンバーだ。