St. James Infirmary
- 作曲: MILLS IRVING,PRIMROSE JOE

St. James Infirmary - 楽譜サンプル
St. James Infirmary|楽曲の特徴と歴史
基本情報
St. James Infirmary(別名 St. James Infirmary Blues)は、歌付きのジャズ・ブルースの定番曲。作曲者クレジットはMILLS IRVING, PRIMROSE JOEとされることが多いが、詳細な由来には諸説がある。初期の決定的録音はルイ・アームストロング(1928年)で、以後、多くの演奏家に受け継がれた。調性は短調で演奏されることが多い。
音楽的特徴と演奏スタイル
形式は12小節ではなく8小節系のブルースを基調とし、下降型のベース進行やマイナー・コードによる陰影が特徴。歌い出しは自由なルバートや語り口調で始まり、バンドが入るとスローからミディアムのスウィングへ移行する解釈が一般的である。ブラスのプランジャー・ミュート、コール&レスポンス、間合いを活かすブレイクなど、物語性を強調するアレンジが映える。即興ではブルーノートやドリアン的音使いが多用され、語りとソロのドラマを対比させる設計が好まれる。
歴史的背景
起源は、19世紀のバラッド The Unfortunate Rake や St. James’ Hospital といった伝承歌に遡るとされ、ニューオーリンズの葬送行進の感覚とも結びついて語られる。出版や権利表記は時代・版によって揺れがあり、Joe Primrose 名義(Irving Mills に関連する名義)が広く見られる一方、伝承曲との関係も指摘されてきた。正確な出版年は情報不明。1920年代末までにジャズ・ナンバーとして定着し、暗色の物語性を湛えたスタンダードとして広まった。
有名な演奏・録音
代表的な録音としては、ルイ・アームストロングによる1928年のヴァージョンが広く知られる。さらに、カブ・キャロウェイの迫力あるビッグバンド版も重要で、1930年代のアニメーション短編(Betty Boop『Snow-White』)で用いられた演奏は特に名高い。その後も、トラディショナル・ジャズからモダン志向の歌手に至るまで、多様な解釈で数多く録音され、各時代のサウンドを映すリファレンスとして聴かれてきた。
現代における評価と影響
今日では、セッションの定番レパートリーとして扱われ、音大やジャズ教育の現場でもフォーム分析やアレンジ課題に取り上げられることが多い。テンポ、拍感、ソロ配分の自由度が高く、編成を問わず映えるため、ビッグバンド、小編成、弾き語りまで適応可能である。映像作品や広告での引用例も見られ、哀切で劇的なイメージは世代を超えて共有されている。
まとめ
陰影のある短調ブルースに、語りと即興が重なる本曲は、ジャズの表現力を端的に示す一曲である。クレジットや起源に揺らぎを抱えつつも、名演の積み重ねによって標準曲としての地位を確立し、今なお演奏者と聴き手を魅了し続けている。