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Wait Till You See Her
- 作曲: RODGERS RICHARD

Wait Till You See Her - 楽譜サンプル
Wait Till You See Her|楽曲の特徴と歴史
基本情報
Richard Rodgers作曲、Lorenz Hart作詞による「Wait Till You See Her」は、1942年のブロードウェイ・ミュージカル『By Jupiter』で初演されたナンバー。舞台発のショー・チューンながら、のちにジャズ・スタンダードとして定着した。歌詞は性別に応じて「Wait Till You See Him」として歌われる場合もあり、複数の公式録音で題名が併存している。ロマンティックで控えめな語り口が特徴で、グレイト・アメリカン・ソングブックの一曲として広く親しまれている。
音楽的特徴と演奏スタイル
繊細で内省的なメロディと、ロジャースらしい滑らかな和声進行が魅力。テンポはバラードからミディアムまで幅広く、歌ではイントロを自由に扱うルバートの解釈が映える。インストではリハーモナイズやテンションの置き方で表情が変化し、静かなダイナミクスのコントロールと間合いが表現の要となる。旋律の抑揚は大きすぎず、語るようなフレージングが似合うため、ヴォーカルも器楽も過度なヴィルトゥオジティより歌心を重視したアプローチが好まれる。
歴史的背景
本作が生まれた1942年は、ロジャース&ハート期の晩年にあたる。『By Jupiter』は二人の最後期のヒット作で、のちにロジャースはO.ハマースタインIIと組み、作風を大きく広げていく。楽曲自体は舞台を離れても独立性が高く、1950年代以降のジャズ・シーンで継続的に採り上げられ、アメリカン・ソングブックの重要曲として定着した。舞台の具体的な場面配置や初演キャストの詳細は情報不明だが、作品の柔軟性が後年の多様な解釈を可能にしたと考えられる。
有名な演奏・録音
代表的な録音としては、Ella Fitzgeraldが『The Rodgers and Hart Song Book』(1956)で取り上げたヴァージョンが知られる。以降、多くのジャズ・シンガーが性別に応じた題名で録音し、ピアノ・トリオなど器楽編成の演奏も多数。歌詞の含意を重視するヴォーカリスト、ハーモニーを拡張するモダン派のプレイヤーいずれにも愛奏されてきた。なお、映画やテレビでの顕著な使用例については情報不明。
現代における評価と影響
現在もヴォーカル・レパートリーの定番として教育現場やセッションで愛奏され、バラード表現や歌詞理解の教材として扱われることが多い。配信時代にはアーカイブ音源が容易に参照でき、異なるテンポ設定や和声処理の比較研究にも適する一曲として評価が高い。歌詞の情景性とシンプルな旋律が現代的録音とも相性がよく、スタンダード集やトリビュート企画でも再録が続く点は、この曲の普遍性を物語っている。
まとめ
「Wait Till You See Her」は、舞台発の上質なメロディと詩情が融合した佳曲。抑制の美学を生かすほど魅力が立ち、ヴォーカルにもインストにも開かれた名スタンダードとして今後も演奏され続けるだろう。作品成立の背景と、自由度の高い解釈可能性が、時代を超えて愛される理由である。