Black And Blue verse付き
- 作曲: BROOKS HARRY, RAZAF ANDY, WALLER THOMAS FATS

Black And Blue verse付き - 楽譜サンプル
Black And Blue verse付き|楽曲の特徴と歴史
基本情報
「(What Did I Do to Be So) Black and Blue」は、BROOKS HARRY、RAZAF ANDY、WALLER THOMAS FATS(Fats Waller)による1929年の楽曲で、ジャズ・スタンダードとして広く知られます。タイトルの“verse付き”は、本編コーラスの前に置かれる導入部(ヴァース)を含む版を指し、物語的な前振りと和声的な準備を担います。多くの演奏や出版譜ではこのヴァースが省略されることもありますが、含めることで歌詞の状況説明が明確になり、曲全体のドラマ性が増します。歌詞は人種差別や孤独感といった重いテーマを扱い、当時のジャズ楽曲としては異例の社会的含意を帯びています。
音楽的特徴と演奏スタイル
基本的にはスロー〜ミディアムのバラード・フィールで演奏され、ブルース由来の旋律語法と豊かな半音進行が印象的です。ヴァースは語り口が強く、自由度の高いフレージングで始まり、コーラス部で明確な周期性に収れんしていきます。ハーモニーは古典的ジャズの語彙に則りつつも、悲哀を帯びたテンション使いが表情を深めます。歌唱ではレガートと間(ま)のコントロールが要で、器楽ではミュート・トランペットやクラリネットの陰影ある音色がよく合います。演奏調は編成や歌手のレンジに合わせて可変で、解釈の幅が広いのも本曲の魅力です。
歴史的背景
本作はブロードウェイのレビュー『Hot Chocolates』(1929年)に由来し、ハーレム・ルネサンス期の文脈の中で誕生しました。作詞のAndy Razafは当時の社会に潜む偏見を、比喩と内省を交えた言葉で描写。内容の深刻さと美しいメロディが融合し、単なるラブソングを超えた存在感を獲得します。ジャズが娯楽音楽でありつつ社会の影を映す鏡でもあったことを象徴する一曲で、上演・録音を通じて広く知られるようになりました。のちの批評史でも、本曲はジャズにおける表現領域の拡張を示す代表例としてしばしば言及されます。
有名な演奏・録音
Louis Armstrongの録音は代表的解釈として高い評価を受け、楽曲の知名度を決定づけました。Ethel WatersやFats Waller自身をはじめ、多くの歌手・奏者が取り上げ、ビッグバンドから小編成コンボまで多彩な編曲が残ります。文学ではラルフ・エリソンの小説『見えない人間』でArmstrongの演奏が印象的に言及されるなど、音楽外の領域にも波及しました。録音の年代・版によってはヴァース省略版が主流な場合もあり、verse付きの完奏は資料性の面でも貴重です。
現代における評価と影響
今日でもジャズ教育やリサイタルで頻繁に扱われ、歌詞解釈とフレージング、ダイナミクス設計の好教材として認識されています。とりわけverse付きはストーリーの地続きを示し、聴き手にテーマの核心へと滑らかに導く効果があるため、再評価が進んでいます。社会的テーマを内包するスタンダードとして、コンサートのプログラム構成に思想的軸を与える曲として選ばれることも多く、時代を超えて共感を呼び続けています。
まとめ
「Black and Blue」は、芳醇なメロディと社会的含意を併せ持つ稀有なスタンダードです。verse付きで演奏・鑑賞することで、物語性と音楽的陰影がより立ち上がり、作品の真価が伝わります。