Dinah verse付き
- 作曲: AKST HARRY

Dinah verse付き - 楽譜サンプル
Dinah verse付き|楽曲の特徴と歴史
基本情報
「Dinah」は、作曲ハリー・アクスト、作詞サム・M・ルイスとジョー・ヤングによる1925年のポピュラー・ソングで、その後ジャズ・スタンダードとして広く定着した。タイトルにある「verse付き」は、リフレイン(コーラス)の前に置かれる序唱部=ヴァースを含む演奏形態を指す。多くのジャズ演奏ではヴァースを省略するが、歌唱や劇場的な文脈では物語性を与える要素として重視される。本曲の歌詞は、憧れの相手“Dinah”への想いを高揚感あるメロディに乗せて歌い上げる内容で、恋情と理想化をテーマにした典型的なティン・パン・アレー期の作風を示す。
音楽的特徴と演奏スタイル
リフレインはAABA型の32小節形式。明快なトニック感と循環進行、セカンダリー・ドミナントが要所に配され、スウィング・フィールでのアップ〜ミディアム・テンポに乗せた即興に適している。A部はシンコペーションを含む印象的な旋律線で、B部(ブリッジ)は転調感とドミナント連鎖で緊張感を高める。ヴァースは語りのような導入で、歌唱では物語の地平を開く役割を担うが、インストゥルメンタルではしばしば省略される。アレンジ上は4ビートのウォーキング・ベース、ストップタイム、トレード・フォーなどとの相性が良く、モダン以降はトライトーン・サブやコード・リハーモも取り入れられてきた。
歴史的背景
1920年代中葉、ブロードウェイとティン・パン・アレーの黄金期に生まれた本曲は、ダンス・バンドから小編成コンボまで幅広く取り上げられ、スウィング時代の定番曲へと成長した。エディ・カンターが舞台で紹介したとされる説があるが、初演状況の詳細は情報不明。出版・録音の普及を背景に、同時代の歌手とバンドがこぞってレパートリー化し、やがてヨーロッパのホット・ジャズにも波及した。
有名な演奏・録音
初期の決定打として、エセル・ウォーターズ(1925)の録音が知られる。ルイ・アームストロングはしばしば取り上げ、ミルス・ブラザーズとの共演盤(1937)は特に人気が高い。ジャンゴ・ラインハルトとステファン・グラッペリによるホット・クラブ系の演奏(1930年代中盤)は、疾走感あるギターとヴァイオリンの対話で曲のスウィング性を強調。ベニー・グッドマン四重奏団もレパートリーに含め、小編成スウィングの洗練を示した。加えて、ファッツ・ウォーラーらストライド系のアプローチも本曲の多面性を裏付ける。
現代における評価と影響
「Dinah」はセッションでの共通語彙として機能し、学生バンドからプロまで幅広く演奏され続ける。AABAの明確な構造と、コード置換の余地が大きい和声設計は、即興訓練の教材としても優れている。ヴァース付きの歌唱は、物語的な導入を通じて歌詞のニュアンスを伝えるうえで有効とされ、舞台的・叙情的な解釈を志向する歌手に重宝される。一方で、インストゥルメンタルではテンポ感とスウィングの推進力を際立たせる選曲として位置づけられている。
まとめ
1925年に生まれた「Dinah」は、歌詞の魅力とジャズ的即興の両立を示す古典。ヴァース付き構成は物語性を補強し、AABAの堅固な骨格は時代を超えて演奏者を惹きつける。名演の蓄積により、今日もスタンダードとして確固たる地位を保っている。