I Cried For You verse付き
- 作曲: FREED ARTHUR,ARNHEIM GUS,LYMAN ABE

I Cried For You verse付き - 楽譜サンプル
I Cried For You verse付き|楽曲の特徴と歴史
基本情報
I Cried For Youは、Gus ArnheimとAbe Lymanが音楽を、Arthur Freedが歌詞を手がけた楽曲で、1923年に発表されたとされるジャズ・スタンダード。日本語表記では「アイ・クライド・フォー・ユー」。本稿の対象である「verse付き」は、コーラス(いわゆる本編)に入る前に短い語り口調の導入部が置かれる版を指す。歌詞の主題は、相手のために涙した過去から、今度は相手が自分のことで泣く番だという感情の反転。キーやテンポは演者により多様で、バラードからミディアム・スウィングまで広く解釈されている。
音楽的特徴と演奏スタイル
verseは落ち着いた語りの質感で情景を整え、続くコーラスで明瞭な旋律線とキャッチーなフレーズが展開する構造が親しまれている。伴奏は4ビートのスウィング感で進める解釈のほか、テンポ・ルバートで情緒を深めるバラード処理も定番。シンガーはフレーズ末尾の間合いやブレス位置でドラマ性を強調し、器楽奏者は旋律の余韻を活かしたコール&レスポンスや、内声のガイド・トーンを強調するボイシングで歌心を引き出す。ライブではverse省略版も見られるが、本稿の主題はverseを含む全体設計である。
歴史的背景
作詞のArthur FreedはのちにMGMで名プロデューサーとなる人物で、発表当時はダンス・バンド全盛の時代。Gus ArnheimやAbe Lymanはウェストコーストのバンド・リーダーとして知られ、社交場やラジオを通じて同曲は広まった。20年代後半から30年代のスウィング期にかけて、ヴォーカルとビッグバンド、さらに小編成のコンボでも取り上げられ、リパートリーとして定着。出版や初演の細部データには異同があり、チャート順位などの詳細は情報不明である。
有名な演奏・録音
本曲は多くの歌手・バンドに録音され、スタンダードとして息長く演奏されてきた。ビリー・ホリデイの1930年代の録音はしばしば参照され、同曲のブルージーな情感とスウィング感の両立を示す好例として語られる。初期にはダンス・バンド系の録音が普及に貢献したとされるが、個別録音の年次やチャート実績の確定情報は情報不明。現行のジャズ・クラブでもシンガーと小編成の組み合わせで取り上げられる機会が多い。
現代における評価と影響
I Cried For Youは、端的で覚えやすいメロディと、失恋からの感情の反転という普遍的テーマで、世代を超えた共感を生む。教育現場やセッションの現場では、メロディの歌い回し、リズムの後ノリ、ダイナミクスの設計を学ぶ教材としても有用。verseの有無で曲全体の印象が大きく変わるため、ステージ構成の工夫にも適している。配信時代においても、過去の名演と新録音が並存し、スタンダード曲としての生命力を保ち続けている。
まとめ
Freed/Arnheim/LymanによるI Cried For Youは、verseによる語りの導入と、コーラスでの印象的な旋律が魅力のジャズ・スタンダード。1920年代のダンス・バンド文化を起点に広まり、スウィング期以降も歌手とコンボの重要レパートリーとして継承されてきた。録音史の細部に情報不明な点はあるものの、今日まで演奏現場で生き続ける普遍性は揺るがない。歌心と物語性を両立させたい演者にとって、今なお学び甲斐のある一曲である。