Lulu's Back In Town verse付き
- 作曲: WARREN HARRY

Lulu's Back In Town verse付き - 楽譜サンプル
Lulu's Back In Town verse付き|楽曲の特徴と歴史
基本情報
「Lulu's Back In Town」は、1935年の映画『Broadway Gondolier』のために書かれたポピュラー歌曲で、のちにジャズ・スタンダードとして広く定着した作品。作曲はハリー・ウォーレン(Harry Warren)、作詞はアル・ダビン(Al Dubin)。本稿が扱う“verse付き”とは、コーラス(本体のAABA)に先立つ導入部分=ヴァースを含めた演奏形態を指す。スタンダード演奏ではヴァースが省略されることも多いが、物語的な前振りを担うため、歌唱やストーリーテリングを重視する場面では大きな効果を発揮する。
音楽的特徴と演奏スタイル
一般に自由テンポ気味のヴァースから入り、メインは32小節のAABA。スウィング期の語法に根ざし、循環進行やセカンダリードミナント、半音階的なアプローチが軽妙さを支える。テンポはミディアム〜ミディアム・アップが定番で、歌詞の機知と相まって軽快なスイング感が映える。ピアノではストライドの語法が相性良く、管楽器はブレイクを活かしてパンチの効いたリフを配置すると効果的。ヴァースを組み込む場合は、自由度の高い伴奏で語りを引き立て、コーラス突入で一気にスウィングへ推進する構成が典型。キーやテンポは演者により多様で、歌唱か器楽かによっても最適解が変わる。
歴史的背景
1930年代のティン・パン・アレー黄金期、映画音楽とポピュラーソングは密接に結びつき、スクリーン発のヒットがダンスホールやラジオへ広がった。本曲もその文脈にあり、映画での披露を経てダンス・バンドとジャズ演奏家に素早く採り上げられる。ヴァースは当時の慣習に沿う物語的導入で、聴衆の注意を引き寄せる設計。大恐慌後の大衆娯楽として、機知に富んだ歌詞と快活なスウィング感が受け入れられ、やがて“歌ってよし、吹いてよし”の定番曲として地位を固めた。
有名な演奏・録音
映画『Broadway Gondolier』(1935年)でディック・パウエルが歌唱したことが初期の普及に大きく寄与。間もなくファッツ・ウォーラーが痛快なスウィングで録音し、ジャズ的な寿命を決定づけた。その後もテロニアス・モンクによる再解釈はハーモニーとタイム感の新味を示し、名唱ではメル・トーメが洗練された表現で魅力を拡張。これらの録音は、ヴァースを含むか否か、テンポ設定、間の取り方などアプローチの幅広さを示す参照例として、現在も研究・実演の指標となっている。
現代における評価と影響
今日でも小編成のコンボからビッグバンド、ヴォーカル・セッションまで幅広く選曲される。ヴァースを活かす構成はコンサートやレビュー形式のステージで映え、物語性とショウアップの両立が可能。歌詞のウィットを尊重しつつ、モダンなハーモニーやリズム処理でアップデートできる懐の深さも評価の理由である。教育現場ではAABA形式の典型例として、また“ヴァースを持つスタンダード”の教材として扱われ、歴史的背景と実践的アレンジの両側面から参照され続けている。
まとめ
「Lulu's Back In Town」は、映画発のポピュラー曲がジャズ・スタンダードへと昇華した好例であり、ヴァースの有無によって表現の重心を自在に変えられる柔軟性を持つ。スウィングの推進力、機知に富む歌詞、洗練された和声語法が結びつき、時代を超えて演奏家と聴衆を惹きつけてきた。ヴァース付きのアプローチを試みれば、物語性とダイナミクスの対比が際立ち、作品の魅力をより立体的に示せるだろう。