The Last Time I Saw Paris verse付き
- 作曲: KERN JEROME

The Last Time I Saw Paris verse付き - 楽譜サンプル
The Last Time I Saw Paris verse付き|歌詞の意味と歴史
基本情報
「The Last Time I Saw Paris」はJerome Kern作曲、Oscar Hammerstein II作詞のポピュラー・ソング(1940)。翌年、MGM映画『レディ・ビー・グッド』(1941)で使用され、アカデミー歌曲賞を受賞したことで知られる。多くの演奏で前置きの導入部=ヴァースが省略されるが、本稿はヴァース付きの全体像に着目。正式な初演者や初出舞台の詳細は情報不明だが、発表直後からラジオやレコードで広く親しまれ、アメリカン・ソングブックの代表曲の一つに数えられることが多い。
歌詞のテーマと意味
歌詞の核は、戦禍以前のパリへの愛惜と回想である。「最後に見たパリ」は、陽気さや街路の息遣いといった具体的記憶の連なりとして描かれ、失われた時間を悼む個人的抒情へと昇華する。ヴァースは物語の導入として主人公の心情と情景を静かに提示し、その後のリフレインで郷愁が大きく波打つ構成。固有名詞や直接的スローガンを避け、日常の断片を通じて都市そのものを人格化する筆致はHammersteinの作詞技法の典型で、聴き手に普遍的な喪失感と希望の余白を残す。
歴史的背景
本作は1940年、ナチス・ドイツによるパリ陥落直後の空気の中で生まれた。Hammersteinが喪失の感情を詩にし、Kernが旋律を与えたと伝えられる(作詞・作曲の具体的経緯の細部は情報不明)。翌年に映画で採用されアカデミー歌曲賞を受賞したが、もともと映画のために書かれたわけではなかったため、のちに“作品のために新たに書かれた楽曲に限る”という規定変更の一因としてもしばしば言及される。戦時下の大衆心理と結びつき、国際都市パリの象徴性を広めた点でも歴史的意義は大きい。
有名な演奏・映画での使用
映画『レディ・ビー・グッド』(1941)での使用が決定的な普及をもたらし、同作がアカデミー歌曲賞受賞の舞台となった。以後、数多の歌手や編曲家が取り上げ、コンサート、ラジオ、クラブで幅広く演奏されてきた。オリジナル・ヒット録音の詳細や特定アーティストの決定的名演に関しては情報不明だが、ヴァースを省く短縮版と、ヴァース付きの完全版の両流儀が共存し、場面の雰囲気や演奏時間に応じて選択されることが多い。
現代における評価と影響
本作はアメリカン・ソングブック的レパートリーとして、ポピュラーからジャズ・シーンまで幅広くカバー対象となっている。ヴァースを含めて演奏すると物語性が増し、歌詞の時間軸と感情の起伏が明晰になるため、リサイタルやアルバムで“完全版”を採用する意義は大きい。教育的には、戦争と文化の関係、映画産業と流行歌の連動、アワード規定の変遷を学ぶ好例でもある。現代の聴衆にとっても、都市への愛と記憶のテーマは色あせず、新録音や舞台上演での再解釈が続いている。
まとめ
「The Last Time I Saw Paris」は、戦時の現実を背景に生まれ、映画を通じて国民的愛唱歌へと広がった抒情的名曲である。ヴァース付きで味わうことで、主人公の心象から郷愁の頂点に至る物語線が立ち上がる。歴史的文脈と芸術性が交差する本作は、時代を超えて“失われた場所と時間”を思い起こさせる力を保ち続けている。代表的録音の網羅的リストは情報不明だが、今日も多彩な解釈が積み重ねられている。