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Hey There

  • 作曲: ADLER RICHARD, ROSS JERRY
#スタンダードジャズ
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Hey There - 楽譜サンプル

Hey There|楽曲の特徴と歴史

基本情報

Hey Thereは、Richard AdlerとJerry Rossによる1954年のブロードウェイ・ミュージカル『パジャマ・ゲーム』の挿入歌。劇中では主人公シド・ソロキンが口述録音機に向かい、自分自身を諭す独白歌として歌われる。作曲・作詞は両名の共同で、端正な旋律と心理描写に富む歌詞が特徴。舞台の成功とともに本曲は単独でも広く親しまれ、ポピュラー/ジャズの両領域で取り上げられる定番レパートリーとなった。映画版『パジャマ・ゲーム』(1957年)にも用いられ、ショー・チューンとしての枠を越えた浸透度を獲得している。

音楽的特徴と演奏スタイル

形式は典型的な32小節のAABA。語りかけるようなA部と、情感をひときわ高めるB部が明確に対比し、ジャズ・ヴォーカルに適した余白を与える。旋律は中低域を中心に穏やかに推移し、内省的なニュアンスを生む半音階的な動きが印象的。和声はII–V–I進行を軸に置き、セカンダリー・ドミナントや裏コードを用いた reharmonization も受け止めやすい。テンポはバラード〜ミディアム・スローが定石で、ルバートのイントロ、4ビートへの移行、最後に半音上へのモジュレーションといった演出がよく見られる。デュオ(声+ピアノ)からビッグバンドまで編成適応力が高い。

歴史的背景

1950年代前半のブロードウェイ黄金期、アドラー&ロスは『パジャマ・ゲーム』と続く『くたばれ!ヤンキース』(Damn Yankees)で快進撃を見せた。『パジャマ・ゲーム』は1955年にトニー賞作品賞を受賞し、その中核を成すバラードとしてHey Thereは観客の心を掴んだ。劇中設定—録音機との“対話”—は当時として斬新で、内面独白を音楽的モチーフへ昇華した手腕が高く評価された。コンポーザー・デュオの活動期間は短かったが、本曲は彼らのクラフトマンシップを象徴する一ページである。

有名な演奏・録音

舞台発表直後から多数のカバーが生まれ、Rosemary Clooneyのシングルは全米チャートで上位に進出。映画版では主演キャストによる演唱が広く知られ、以後もクラブ・シーンやTV番組で繰り返し歌われた。ジャズ界ではスタンダードとして定着し、ヴォーカリストのレパートリーに頻出。インストゥルメンタルのアレンジも多く、バラード・サックスやギター・トリオによる歌心重視の解釈が支持されている。

現代における評価と影響

Hey Thereは“心の声を歌にする”という演劇的発想と、普遍性のある旋律・和声が融合した稀有な曲として評価が定着。音域やフレージングが適度な難度で、呼吸法やダイナミクスを学ぶ教材としても重宝される。配信時代には、往年の名唱と現代的リハーモナイズ版の聴き比べが容易となり、世代を超えて受容が拡大。ジャズ教育現場やオーディションでも選曲され続け、アメリカン・ソングブックの重要曲として地位を保っている。

まとめ

『パジャマ・ゲーム』由来のHey Thereは、AABA構成の美しさと内省的ドラマを併せ持つショー・チューン/ジャズ・スタンダードである。舞台・映画・録音史の各局面で存在感を放ち、今日も歌い手と聴き手の心理に静かに寄り添う。解釈の幅が広い一方、原曲の簡潔さが核を成し、時代を越えて新しい表情を見せ続ける名曲だ。