I'll Get By verse付き
- 作曲: AHLERT FRED E,TURK ROY

I'll Get By verse付き - 楽譜サンプル
I'll Get By verse付き|楽曲の特徴と歴史
基本情報
「I'll Get By(As Long as I Have You)」は、作曲フレッド・E・アラート、作詞ロイ・タークによるアメリカのポピュラー・ソングで、のちにジャズ・スタンダードとして定着した作品。発表年は情報不明。タイトルの“verse付き”は、本来の前口上にあたるヴァース(短い導入部)を含む形で演奏・解釈することを指す。多くの録音でヴァースが省略される中、物語性と情景を補強するこの導入を取り入れることで、歌詞の主題である「支えがあれば前に進める」という普遍的メッセージが一層明瞭になる。
音楽的特徴と演奏スタイル
本曲はヴァースで心情や状況を静かに提示し、続くメイン部(コーラス)で印象的な旋律が開くという二段構えの構成が特徴。テンポはバラードからミディアムの範囲で演奏されることが多く、歌唱ではレガートと間の取り方が要。コード進行はティン・パン・アレー期の語法を踏まえ、穏やかな循環と転調感が抒情を支える。ヴァースを活かす場合、ルバートでたっぷり語ってからリズムセクションを入れると効果的。器楽ではテナーサックスやトランペットのバラード・フィーチャーとして、メロディの歌心を前面に出すアプローチが好まれる。
歴史的背景
ニューヨークのティン・パン・アレー由来の流れを汲む本曲は、アメリカ大衆歌の文脈で広く知られるようになり、のちにジャズ界でもレパートリー化。第二次世界大戦期には再評価の機運が高まり、再発やカバーが相次いだ。戦時下の不安や別離の空気のなかで、依拠する存在への感謝と前向きさを歌うメッセージが共感を呼び、ダンスホールからラジオ番組まで幅広い場で取り上げられた。こうした背景が、今日に至るまでのスタンダード化に大きく寄与したと考えられる。
有名な演奏・録音
代表例として、ハリー・ジェイムズ楽団(ヴォーカル:ディック・ヘイムズ)の録音は戦時期の名唱として知られる。また、インク・スポッツのカバーも高い人気を得て、幅広いリスナーに浸透した。これ以外にも多くのジャズ歌手・バンドが取り上げているが、具体的な録音年やアルバム名は情報不明。鑑賞の際は、ヴァースを含むバージョンか否か、テンポ設定、イントロの処理(ルバートか拍を明確にするか)に注目すると、解釈の差異が見えやすい。
現代における評価と影響
本曲はアメリカン・ソングブック的な語り口と覚えやすいメロディで、ヴォーカル・ジャズの教育現場やライブ・レパートリーに生き続けている。ヴァース付きで演奏することで、ストーリーの地平が広がり、セット全体のダイナミクス設計にも貢献。編成はピアノ・トリオから大編成まで適応範囲が広く、キーやテンポの柔軟さも現代の演奏家に好まれる理由といえる。配信時代においても、短尺のメイン部のみで映える一方、ヴァースを活かすロングフォームの語りも支持を得ている。
まとめ
「I'll Get By」は、シンプルで胸に残るメロディと、支え合いを謳う普遍的なメッセージで愛されるスタンダード。ヴァースを含めた解釈は作品の魅力を最大限に引き出し、歌詞の物語性を強調する。初学者から上級者まで、表現の幅を学べる一曲として有用だ。