It Had To Be You verse付き
- 作曲: JONES ISHAM

It Had To Be You verse付き - 楽譜サンプル
It Had To Be You verse付き|楽曲の特徴と歴史
基本情報
It Had To Be Youは、Isham Jones作曲、Gus Kahn作詞による1924年発表のスタンダード。多くの歌手・バンドに愛奏され、ジャズやトラディショナル・ポップの語り口を代表する一曲です。「verse付き」は、リフレイン(サビ)前に置かれる導入部=ヴァースを含めて演奏する版を指し、物語的な前置きで感情の導火線を点けてから本編へ展開します。形式は32小節AABA(リフレイン部)で、舞曲由来の4/4に乗る端正な旋律が特徴。今日でもジャム・セッションやウェディング、ビッグバンドの定番レパートリーとして広く演奏されています。
音楽的特徴と演奏スタイル
リフレインはAABAの古典的構成。Aで穏やかな順次進行のメロディが語り、B(ブリッジ)で転調感やサークル・オブ・フィフスによる緊張を高め、最後のAで帰結します。和声はセカンダリー・ドミナントや代理和音が要所に置かれ、ジャズ的な再ハーモナイズにも適応。ヴァースはテンポを自由に扱うことが多く、語りかけるようなニュアンスで主人公の逡巡を描き、リフレインでリズムが明確になって抱擁感へ落ち着きます。解釈の幅は広く、バラードでしっとり届ける方法から、ミディアム・スイングで軽やかに躍動させる手法まで多彩。ピアノ・トリオ伴奏、ギターとボーカルのデュオ、ビッグバンドの華やかなブラス・アレンジなど、編成を問わず機能する懐の深さも魅力です。
歴史的背景
1920年代のティン・パン・アレー全盛期に生まれ、ダンス・バンドの時代感覚と都会的洗練を兼備した楽曲として浸透しました。レコード産業とラジオ放送の拡大により、同曲は当初から複数の競作録音が並行して広まり、パーラー・ソングからジャズ・スタンダードへと定着。禁酒法時代の社交文化のなかで、甘やかな恋愛観と軽快なダンス・フィールが親和し、後年のクロスオーバー(ジャズ/ポップ)のひな型を形作りました。その普遍性は、戦後のスウィング、クルーナーの系譜、さらには現代のボーカル・ジャズにまで連なっています。
有名な演奏・録音
ビリー・ホリデイをはじめ、多数の一流歌手・楽団が録音。特に映画『恋人たちの予感(When Harry Met Sally...)』ではハリー・コニック・ジュニアの演奏が広く知られ、作品のロマンティックな核を担いました。さらにウディ・アレンの『アニー・ホール』では劇中歌として用いられ、ニューヨーク的な洒脱さとセンチメントの象徴として機能。トニー・ベネット、バーブラ・ストライサンド、レイ・チャールズなども取り上げ、歌手ごとの解釈が多様な聴きどころを生んでいます。
現代における評価と影響
現在もジャズ教育現場やセッションの必修曲として扱われ、ボーカリストの表現力や歌詞理解、テンポ・ルバートからスイングへの移行など、多面的な訓練素材として価値があります。ウェディング/記念日の選曲としての人気も高く、世代を超えて親しまれるレパートリー。ヴァース付きで演奏することで物語性が増し、ステージ構成にドラマを与える点が再評価されています。
まとめ
It Had To Be Youは、1920年代の洗練を宿しつつ、現在も瑞々しく響くジャズ・スタンダード。ヴァースを含めた完全形は、物語の起伏と和声的美しさをいっそう際立たせます。名演の蓄積と映画での印象的な使用が、楽曲の普遍性とロマンを後押しし続けています。