Embraceable You verse付き
- 作曲: GERSHWIN GEORGE

Embraceable You verse付き - 楽譜サンプル
Embraceable You verse付き|楽曲の特徴と歴史
基本情報
ジョージ・ガーシュウィン作曲、アイラ・ガーシュウィン作詞によるスタンダード。1930年のブロードウェイ・ミュージカル『Girl Crazy』で発表され、32小節AABAのコーラスに先立つイントロ的なヴァースを備える。多くの録音ではヴァースが省略されるが、本稿は“ヴァース付き”の完全形に焦点を当てる。主な演奏テンポはバラードで、歌詞の抒情性と旋律の流麗さが評価されている。
音楽的特徴と演奏スタイル
ヴァースは自由テンポで語り口のように始まり、物語的な情感を高めてから本編のAABAへ接続する。コーラスは緩やかな重心移動と充実した副次ドミナントの推移が特徴で、声を大きく張らずとも豊かなレガートが映える。歌唱ではルバートからインテンポへの移行、器楽ではピアノの分散和音やテンション・ヴォイシング、ブレスに寄り添う間合い作りが効果的。終止感の作り分けや、A各部のダイナミクス設計が聴きどころとなる。
歴史的背景
本曲は1928年頃に書かれ、その後『Girl Crazy』で採用・普及した。20世紀前半のアメリカン・ソングブックを代表する一曲で、劇中歌由来の“ヴァース+コーラス”という形式を今日に伝える好例でもある。ブロードウェイの洗練とジャズの即興文化が交差する地点にあり、以降のポピュラー音楽におけるバラード表現にも大きな影響を与えた。映画版『Girl Crazy』(1943)でも使用され、舞台のロマンスを柔らかく支える役割を担った。
有名な演奏・録音
名唱・名演は数え切れない。ビリー・ホリデイやエラ・フィッツジェラルド、ナット・キング・コール、フランク・シナトラらの歌唱は決定的参照点。チャーリー・パーカーのバラード解釈は旋律線の内声処理に示唆が多い。ソングブック型のアルバムではヴァースまで含む全体像が聴ける例が多く、ジャズ・ピアノやギターの独奏でも名演が多数存在する。映画・舞台での再演やテレビ番組のカバーなど、媒体を越えた定着も顕著だ。
現代における評価と影響
現在もジャズ・ヴォーカル/器楽双方の定番レパートリーで、音大やワークショップの教材として頻繁に扱われる。バラード表現の基礎練習、ダイナミクスとフレージング、歌詞と旋律の一致を学ぶ題材として有効で、セッションでは夜の後半に落ち着いたテンポで取り上げられることが多い。ヴァース付きで演奏することで舞台曲としての文脈が立ち上がり、物語性とジャズ的解釈のバランス感覚を磨ける。
まとめ
“ヴァース付き”で聴くと、物語が自然に立ち上がり、後続AABAの情感が一段と明瞭になる。舞台発の設計美とジャズの自由さを併せ持つ名曲として、世代や編成を超えて演奏され続けるだろう。歌・器楽いずれのプレイヤーにとっても、表情豊かなバラード運びと調性感の扱いを学べる普遍的な教材である。