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Some Other Time
- 作曲: BERNSTEIN LEONARD

Some Other Time - 楽譜サンプル
Some Other Time|楽曲の特徴と歴史
基本情報
「Some Other Time」は、レナード・バーンスタイン作曲、ベティ・コムデンとアドルフ・グリーン作詞による楽曲。1944年初演のブロードウェイ・ミュージカル『On the Town(オン・ザ・タウン)』で発表されたバラードで、別れの瞬間に去来する名残惜しさと時間のはかなさを精緻に描く。ミュージカル起源ながら、後年はジャズ界で広く取り上げられ、ヴォーカル/インストゥルメンタル双方のレパートリーとして定着した。
音楽的特徴と演奏スタイル
落ち着いたテンポの抒情的バラードで、緩やかに弧を描く旋律と、柔らかな和声進行が特徴。終止を急がず余韻を残す書法が、歌詞の“いつかまた”という含意と呼応する。ジャズ演奏では、ルバートで導入してからテンポを確立する手法や、内声を生かしたリハーモナイズが好まれる。ヴォーカルは語り口とブレスの間合いが肝要で、ピアノ・トリオではダイナミクスの微細なコントロールと間の使い方が聴きどころとなる。
歴史的背景
『オン・ザ・タウン』は第二次世界大戦期のニューヨークを舞台に、24時間の上陸休暇を過ごす若者たちの出会いと別れを描く作品。本曲は物語終盤で感情の核心に触れる重要曲として機能し、都会的な躍動と対照をなす静謐な情感を提示した。バーンスタインの旋律美とコムデン&グリーンの巧緻な言葉運びが結晶した本曲は、戦時下の時代感覚—限られた時間の尊さ—を背景に普遍的なテーマへと昇華している。映画版での採用状況は情報不明。
有名な演奏・録音
ピアノ・トリオではビル・エヴァンス・トリオが1961年『Waltz for Debby』で残した演奏が名高く、透明感ある音色と間合いが曲の内省性を際立たせる。また、トニー・ベネット&ビル・エヴァンス(1975年)のデュオは、語るような歌と繊細な伴奏の対話が白眉。以降も多くのジャズ歌手やピアニストが取り上げ、ライブの終盤やアンコールでしっとり聴かせる定番曲として親しまれている。
現代における評価と影響
ミュージカル発のスタンダードの中でも、感情の陰影と和声運びの品格が両立した稀有なレパートリーとして評価が高い。教育現場やセッションでもバラード表現の手本として扱われ、歌詞の解釈と音価の置き方、ダイナミクス設計を学ぶ格好の素材となっている。ストリーミング時代になっても新録が途切れず、世代を超えて更新される“静かな名曲”として存在感を保っている。
まとめ
「Some Other Time」は、ブロードウェイに端を発しながらジャズ・スタンダードとして成熟した、別れと時間をめぐる抒情的バラード。簡素な表面に豊かな解釈の余地を宿し、歌でも器楽でも深い表現が可能な名曲である。初演の文脈と数々の名演を踏まえつつ、自分なりの“間”と語り口を探ることで、曲の核心は一層鮮明になるだろう。