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Black And Tan Fantasy
- 作曲: ELLINGTON DUKE

Black And Tan Fantasy - 楽譜サンプル
Black And Tan Fantasy|楽曲の特徴と歴史
基本情報
デューク・エリントンが1927年に発表した代表的ジャズ曲。初期楽団の看板で、主にインストゥルメンタルとして演奏される。短調のブルース感と劇的なコーダが印象的。作詞者や確定した歌詞の存在は情報不明。初録音以降も自作自演による再録が重ねられ、バンドのアイデンティティを示す重要レパートリーとして位置付けられてきた。
音楽的特徴と演奏スタイル
プランジャー・ミュートの“グロウル奏法”トランペットと、ワウワウ系トロンボーンが呼応する「ジャングル・サウンド」の典型。12小節ブルースを軸に、半音階の接続句やコール&レスポンスで陰影を作る。サックス・セクションは和声的背景と対旋律で色彩を加え、ブラスの咆哮とのコントラストを強調。終結部ではショパン「葬送行進曲」の引用が現れ、哀感とアイロニーが交錯する落としどころが曲全体を象徴づける。
歴史的背景
“ブラック・アンド・タン”は人種混合の客が集うクラブを指す当時の語に由来とされ、ハーレム・ルネサンスの都市文化を映す。ダンス音楽としての機能と鑑賞音楽としての雄弁さを併せ持つ本作は、ナイトライフと舞台文化の交差点で支持を得た。78回転盤の普及が追い風となり、エリントン楽団の独自サウンドを広く浸透させた。
有名な演奏・録音
基準となるのはエリントン自身の1927年録音と、その後の再録群。主役トランペットは時期で交替するが、ミュートとグロウルの表情付けが要点で、各時代の奏者の個性が反映されている。1929年の短編映画「Black and Tan」(監督:ダドリー・マーフィー)にも用いられ、映像と結び付いた代表曲として定着。近年もビッグバンドや小編成で継続的に演奏されている。
現代における評価と影響
ブルース語法、オーケストレーション、クラシック引用を統合した初期エリントン美学の凝縮として評価が定着。プランジャーの運用、ブラスとリードの配合、ダイナミクス設計は現在の奏者にとっても格好の教材であり、アレンジャーには音色設計と対位法の研究素材を提供する。教育現場やジャズ史の文脈でも頻繁に取り上げられ、標準レパートリーとして生き続けている。
まとめ
ブラック・アンド・タン・ファンタジーは、ハーレムの時代感とエリントンの創意を刻んだジャズ・スタンダード。ブルースの骨格に色彩的オーケストレーションと諧謔を重ねる構図は今も新鮮で、鑑賞用としても演奏入門の指針としても価値を放つ。ミュート奏法の美学を知る格好の入口となる一曲だ。