Empty Chairs At Empty Tables
レ・ミゼラブル
- 作曲: SCHONBERG CLAUDE MICHEL

Empty Chairs At Empty Tables - 楽譜サンプル
Empty Chairs At Empty Tables|歌詞の意味と歴史
基本情報
「Empty Chairs At Empty Tables」は、ミュージカル「レ・ミゼラブル」に収められたバラード。作曲はClaude‑Michel Schönberg、歌詞は原作フランス語版をAlain BoublilとJean‑Marc Natel、英語版の歌詞はHerbert Kretzmerが担当する。第二幕、蜂起ののちに生き残ったマリウスが、仲間を失ったカフェの席で独白する重要曲で、抑制された編曲と独唱が中心。1985年のロンドン初演以降、ウェストエンドやブロードウェイをはじめ世界中の上演で歌い継がれている。
歌詞のテーマと意味
この歌は、戦いの栄光ではなく喪失の現実を見つめる追悼の歌である。空席と消えた声という具体的イメージを反復し、罪悪感、誇り、無常が錯綜する複雑な感情を描く。マリウスは英雄譚の語り手ではなく、生存者として沈黙に向き合い、若き理想が散った理由を問い直す。旋律は低声域の独白から徐々に高まり、記憶の重さと決意の芽生えを音楽的に示す。直接的な戦闘描写はなく、空白が語る力を前面に出すことで、個の記憶に宿る痛切さを浮かび上がらせている。
歴史的背景
物語は1832年パリ六月暴動に着想を得ており、学生と市民の急進グループによる蜂起が鎮圧された後の場面が舞台である。彼らが集ったカフェ(作中ではABCの友の会の拠点)に戻ったマリウスが、失われた仲間を悼む。楽曲は歴史的事件の大局よりも、敗北後に残る個の記憶と沈黙を焦点化し、革命がもたらす犠牲と理想の断絶を静謐に描写する。
有名な演奏・映画での使用
舞台ではロンドン・オリジナルキャストのマイケル・ボールが代表的な歌い手として知られる。2010年の25周年記念コンサートではニック・ジョナスがマリウス役で本曲を披露し、2012年の映画版ではエディ・レッドメインが繊細なカメラワークと共に内省的な解釈を示した。数多くのキャストアルバムに収録され、独唱リサイタルやオーディションの定番曲としても広く取り上げられている。
現代における評価と影響
静かな語り口で死と記憶に向き合う本曲は、ミュージカル曲の中でも稀有な鎮魂のバラードとして評価が高い。音域と感情表現の幅が試されるため、音大や演劇学校の教材、歌唱コンクールのレパートリーとして重用される。配信時代においても舞台録音や映画版の視聴は根強く、世代や国境を越えて共感を集め続けている。
まとめ
派手なコーラスに頼らず、空虚と沈黙を主題化した本曲は、「レ・ミゼラブル」の思想と人間味を凝縮した重要曲である。言葉数を抑えた歌詞と内向する旋律が、聴き手の想像を喚起し、時代を超えた追悼の歌として深く響く。