Maria
WEST SIDE STORY
- 作曲: BERNSTEIN LEONARD

Maria - 楽譜サンプル
Maria|作品の特徴と歴史
基本情報
「Maria」はレナード・バーンスタインが作曲し、スティーヴン・ソンドハイムが作詞を担当したミュージカル『ウェスト・サイド物語』(1957年初演)の楽曲。物語の前半、ダンス・パーティーで出会った直後に主人公トニーが“マリア”という名の響きに魅了され、抑えきれない恋心をソロで歌い上げる場面で用いられる。ショー・チューンでありながらクラシカルな書法とドラマの必然性を兼ね備え、作品全体の情緒とテーマを凝縮した代表曲として広く知られている。
音楽的特徴と表現
冒頭で名を呼ぶ旋律に現れる増四度(トライトーン)の跳躍は、『ウェスト・サイド物語』全体を貫く緊張の象徴的モチーフ。ここでは不協和が美へと転化する過程が描かれ、恋の昂揚と危うさを同時に示す。旋律線はカンティレーナ的で、テノールのレガートを想定した長いブレスのフレーズが続く。和声は徐々に明度を上げながら転調し、クライマックスで音域・ダイナミクスともに拡張。オーケストレーションは弦の厚みと木管の柔らかい彩りが中心で、リズムは急かさず語り口を重視。オペラ・アリアにも通じる歌心と、ブロードウェイの明確なフックを併せ持つ。
歴史的背景
『ウェスト・サイド物語』はシェイクスピア『ロミオとジュリエット』を20世紀のニューヨークに移し替え、人種・移民・若者文化の衝突を描いた作品。音楽のバーンスタイン、詞のソンドハイム、台本のアーサー・ローレンツ、振付・演出のジェローム・ロビンズという布陣が結集し、1957年ブロードウェイ初演で高い評価を獲得した。ジャズやラテンの語法、クラシックの対位法的思考を統合したバーンスタインの作風は、当時のミュージカルに新風をもたらし、劇的必然に根ざした“歌う理由”を強固に提示した。
使用された映画・舞台(該当時)
舞台初演ではトニー役のラリー・カートが歌い、楽曲の人気を確立。1961年の映画版では俳優リチャード・ベイマーの演技に、歌唱はジミー・ブライアントが吹き替えで参加し、スクリーンでも名場面として定着した。2021年スティーヴン・スピルバーグ監督版でも同場面が再構成され、アンサル・エルゴートが歌唱。各リバイバル公演やツアーでも常に重要な聴きどころとして扱われ、コンサート版やガラ公演でも単独で取り上げられる機会が多い。
現代における評価と影響
「Maria」はミュージカル・レパートリーにおけるテノールの定番曲で、オーディションやコンサートで頻繁に選曲される。音楽理論面ではトライトーン動機の象徴的用法、旋律と和声の有機的連関、テキストとのアクセント一致などが教材として注目される。レコーディングも豊富で、クラシックからクロスオーバー系の歌手まで幅広く採り上げ、世代を超えてスタンダード化。映画版のたびに再評価が進み、デジタル時代にも高い検索・視聴需要を保っている。
まとめ
「Maria」は、恋の瞬発力を音楽と言葉で鮮烈に結晶化した名曲である。ドラマの核を担う主題動機、歌唱映えする旋律、美しいオーケストレーションが相互に支え合い、単独で演奏しても物語性が立ち上がる。舞台・映画の両領域で生き続け、いまなお新演出や新録音が更新される理由は、その普遍的な感情表現にあると言える。