Lass Of Richmond Hill, The
- 作曲: HOOK JAMES,TRADITIONAL

Lass Of Richmond Hill, The - 楽譜サンプル
Lass Of Richmond Hill, The|歌詞の意味と歴史
基本情報
「Lass Of Richmond Hill, The」は、18世紀末のイギリスで親しまれたとされるポピュラー・バラード。作曲はJames Hook(ジェームズ・フック)名義が広く見られる一方、伝承曲としての取り扱いも多く、資料によっては“Traditional”と併記される。本入力のクレジットは「HOOK JAMES, TRADITIONAL」。作詞者および初出年は情報不明。編成は独唱と鍵盤(あるいはギター)伴奏が基本で、各節に同一旋律をあてるストローフォーム(同節異文)が中核。明快な旋律線と覚えやすいリフレインが特徴で、家庭やサロンでの歌唱文化に適した設計となっている。
歌詞のテーマと意味
歌詞は、リッチモンド・ヒルに住む“ラッス(娘)”への変わらぬ愛情を讃える内容。語り手は彼女の美しさと徳性を、自然や花のイメージに重ねて理想化し、比喩表現を多用して称賛を重ねる。恋愛感情の高ぶりだけでなく、相手の気品や節度、誠実さといった内面の価値を見つめる点がポイントで、当時の紳雅な恋愛観を反映している。冒頭から末尾に向かって賛美を積み上げる構成により、一体感のあるメロディと繰り返しが印象を強め、歌い継がれやすい普遍性を獲得している。
歴史的背景
18世紀末のイギリスでは、印刷楽譜の普及とサロン文化、プレジャー・ガーデンの隆盛により、歌と鍵盤伴奏のバラードが大衆的娯楽として浸透した。James Hookは当時の人気作曲家の一人で、このジャンルの担い手として知られる。本曲の“Richmond Hill”がロンドン南西部のリッチモンド(テムズ河畔)か、ヨークシャーのリッチモンドかについては諸説があり、決定的証拠は情報不明。作者の私生活に紐づく解釈や地名同定の試みもあるが、学術的コンセンサスは固まっていない。
有名な演奏・映画での使用
声楽家、合唱団、フォーク系の伝承歌手、古楽アンサンブルなど多様な分野で録音が行われ、歌と鍵盤の原形以外にも、ギター独奏伴奏版、室内楽やブラス/ウインド・バンド向けの編曲例が見られる。英国伝統歌のアンソロジーや教育用合唱曲集でも採録されることが多く、スタンダード的な位置づけを得ている。一方、特定の映画やドラマでの顕著な使用例については情報不明。
現代における評価と影響
本曲は、英国の伝統的バラードの響きを象徴する一曲として、コンサートの小品やアンコール、コミュニティ合唱のレパートリーにも定着。旋律の親しみやすさと直截な愛の表現が国境を越えて受容され、英語圏外でも教材や紹介曲として扱われる。歌詞の比喩(自然や花に託す称賛表現)は、後世のパーラーソングやヴィクトリア朝の恋歌にも通じる書法で、様式史的にも意義がある。伝承と出版文化のあいだに位置する典型例として、研究・実演の双方で参照され続けている。
まとめ
「Lass Of Richmond Hill, The」は、覚えやすい旋律と理想化された恋の讃歌という明快な設計により、18世紀末から現代まで歌い継がれてきた。作曲者クレジットはJames Hookと伝承を併記する場合があり、作詞者や詳細な初出については情報不明点が残るものの、英国バラードの魅力を端的に体現する名品として、教育・演奏・研究の各現場で価値を保ち続けている。