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I've Grown Accustomed To Your Face
- 作曲: LOEWE FREDERICK

I've Grown Accustomed To Your Face - 楽譜サンプル
I've Grown Accustomed To Your Face|楽曲の特徴と歴史
基本情報
本曲はフレデリック・ロウ作曲、アラン・ジェイ・ラーナー作詞のブロードウェイ・ミュージカル『マイ・フェア・レディ』(1956)由来のナンバー。物語終盤、ヘンリー・ヒギンズがエライザへの感情に気づく場面で歌われる。題名は“Her Face”“Your Face”の表記揺れが流通するが、同一曲を指す。抒情性の高いバラードとしてポピュラーとジャズ両領域で受容され、今日ではスタンダードとして広く演奏されている。
音楽的特徴と演奏スタイル
穏やかなバラードで、多くの版で32小節AABA形式。語り口を重んじる旋律線と、半音階的な動きが情感を深める。原曲はスロー〜ミディアムの4/4で、イントロに自由なルバートを置く解釈も一般的。ジャズでは転調や再ハーモナイズが好まれ、サブドミナント・マイナーの用法やii–V進行を滑らかに扱うアレンジが映える。ボーカルは語り掛けるニュアンスを、器楽は歌心と間合いを重視して演奏される。
歴史的背景
『マイ・フェア・レディ』はジョージ・バーナード・ショーの戯曲『ピグマリオン』を原作とし、1956年の初演で大成功を収めた。劇中でヒギンズが孤独と愛情の自覚を吐露するこの歌は、作品の心理的クライマックスを担う重要曲である。舞台の人気と録音媒体の普及に伴い広く知られるようになり、1964年の映画版でも使用。以後はショー・チューンの枠を超え、ジャズ/ポピュラー双方の定番曲として定着した。
有名な演奏・録音
代表的な音源として、レックス・ハリソンのオリジナル・キャスト録音、ナット・キング・コールの温かなバラード解釈、チェット・ベイカーによる繊細な歌唱とトランペットが挙げられる。これらは原曲の語りの魅力とジャズ的な自由度の両立を示し、以後の解釈の指標となった。ほかにも多くのシンガーやピアノ・トリオ、管楽器奏者が取り上げ、ライブの定番として録音が重ねられてきた。
現代における評価と影響
恋心の自覚という普遍的主題と、歌い手の個性を映す余白の広さが評価され、ジャズ・クラブからコンサートホールまで幅広い現場で演奏される。英語詞のアーティキュレーションや、バラード表現・間合いの学習曲としても重宝される存在だ。映画・舞台文脈に留まらず、アルバムの深いトラックやアンコール・ピースとしても機能し続け、スタンダードとしての地位を確かなものにしている。
まとめ
舞台生まれの名曲は、叙情的な旋律と柔らかな和声によって、語りと歌の中間を行く味わいを保ち続ける。原曲のドラマ性を尊重する解釈でも、ジャズ的に和声を拡げるアプローチでも成立する懐の深さこそ、本曲が長く愛される理由である。『I've Grown Accustomed To Your Face』は、物語性と即興性の架け橋となる、時代を超えたスタンダードだ。