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Matrix

  • 作曲: COREA CHICK
#スタンダードジャズ
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Matrix - 楽譜サンプル

Matrix|楽曲の特徴と歴史

基本情報

「Matrix」は、ジャズ・ピアニスト/作曲家Chick Coreaによるインストゥルメンタル曲。初出は1968年のアルバム「Now He Sings, Now He Sobs」で、ミロスラフ・ヴィトウス(b)、ロイ・ヘインズ(ds)とのピアノ・トリオによって録音された。歌詞は存在せず作詞者は情報不明。原曲はピアノ・トリオを前提とした構成で、即興と相互作用が中核に置かれている。キーや正式な出版形態の詳細は情報不明だが、コリアの代表的な初期トリオ・レパートリーとして広く知られる。

音楽的特徴と演奏スタイル

切れ味のあるテーマとスリリングなテンポ感、先鋭的なリハーモナイズが特徴。コリア特有の堅牢なタッチ、四度堆積を思わせる和声感、モーダルとポスト・バップを横断するボイシングが印象的で、モチーフの反復と変形を軸に発展する。リズム面では、ヘインズの弾力あるスウィングとポリリズミックなアプローチ、ヴィトウスの流動的なウォーキング/対旋律が絡み、三者の即興対話が緊張と解放を生む。ソロはライン志向が強く、和声の推進力を伴いながらクリアに展開される。

歴史的背景

1968年は、コリアがアコースティック・トリオで独自の語法を確立した転換期にあたる。フリー・インプロヴィゼーションの影響を吸収しつつ、ポスト・バップの文法を再構築する彼の姿勢が「Matrix」にも結実した。アルバム「Now He Sings, Now He Sobs」は後のピアノ・トリオ像に大きな示唆を与え、インタープレイ重視の美学を提示。電化以降の活動に先立つ重要なマイルストーンとして、本曲はコリアの作曲観と即興観の交差点を示す位置づけにある。

有名な演奏・録音

最も参照されるのは初演トリオによるオリジナル録音で、鋭利なテーマ提示とダイナミックな展開は現在も指標的な演奏として評価される。以後、コリアはライヴで繰り返し取り上げ、時代や編成に応じたテンポやフォーム運用の差異を示してきた。他演奏家による録音も存在するが、網羅的なリストは情報不明。いずれにせよ、テーマの凝縮度と即興余地の広さから、録音ごとに表情が大きく変わる曲として聴かれることが多い。

現代における評価と影響

「Matrix」はコリアの作曲語法を学ぶうえで格好の教材とされ、和声運動、リズムのシンコペーション、モチーフ開発の実例として研究対象となっている。ピアノ・トリオの相互作用を重視する近年の演奏美学とも親和性が高く、ジャズ教育の場や上級アンサンブルで取り上げられることが多い。録音・ライヴの両面で再演が重ねられ、コリア作品群の中でもアコースティック時代を象徴する重要曲として位置づけられている。

まとめ

Chick Corea作曲「Matrix」は、鋭いテーマ、先鋭的な和声、三者対話の妙が凝縮されたアコースティック・トリオの名曲である。1968年の初演録音は本曲の決定的参照点であり、その後の演奏史の基盤を作った。歌詞を持たない純粋なインストゥルメンタルとして、作曲と即興の境界を軽やかに横断する魅力は今日も色褪せない。入門者にとってはコリアの核心に触れる入口であり、上級者にとってはインタープレイの可能性を拡張する格好の題材となる。