Now He Beats The Drum-Now He Stops
- 作曲: COREA CHICK

Now He Beats The Drum-Now He Stops - 楽譜サンプル
Now He Beats The Drum-Now He Stops|楽曲の特徴と歴史
基本情報
Chick Corea(クレジット表記: COREA CHICK)によるピアノ・トリオのインストゥルメンタル。1968年発表のアルバム『Now He Sings, Now He Sobs』に収録。共演はミロスラフ・ヴィトウス(b)とロイ・ヘインズ(ds)。曲名が示す「叩く/止む」という対比を、音と沈黙のコントラストとして描く構想が核にあり、躍動と静止を往還する設計が聴きどころ。作詞者・歌詞は存在せず、メロディとアンサンブルの緊張感で物語を編むタイプの楽曲である。
音楽的特徴と演奏スタイル
硬質なアタックと鋭いアクセントを軸に、短いモチーフを叩きつけるように提示し、唐突なブレイクや休符で切り裂く構図が印象的。モーダルな和声感の上で、ピアノ、ベース、ドラムが等価に絡み、推進力と緊張が連続する。ヘインズのしなやかなシンバル・レガートやスネアの応酬に対し、コリアはクォータル風のヴォイシングやブロック・コード、反復的リフで応答。ヴィトウスは旋律的なランと大胆なペダルで土台と対話を両立させ、三者の相互作用が曲名どおりの“叩く/止む”の劇を生む。
歴史的背景
同年後半、コリアはマイルス・デイヴィスのエレクトリック期へ合流するが、本曲はその直前に確立されたアコースティック・トリオ語法の核心を示す。ハード・バップ以後の自由度と、構築的なリズム設計の折衷は1960年代末の潮流と響き合い、後年のラテン志向やフュージョン志向へ向かう前段での美学が明確に刻まれた。抽象性と明晰なフォーム感のバランスが、当時のニューヨーク・シーンにおける先鋭と伝統の接続を象徴している。
有名な演奏・録音
決定的な参照音源は、1968年のオリジナル・トリオによるスタジオ録音で、以降の再発・リマスターでも評価は揺るがない。ピアノ・トリオ研究や音大のアナライズ題材として取り上げられることも多く、フレージングとブレイク、ダイナミクスの扱いは実践的教材として重宝される。その他の著名なカヴァーや映像作品での使用は情報不明。
現代における評価と影響
本曲は一般的な“スタンダード”ほどの普及ではないが、間(沈黙)を構成要素として扱う発想、ドラムとピアノの等価な対話、モーダルな地平での緊張制御など、現代トリオの語法に多大な示唆を与えた。特に、リズムの押し引きと和声の抽象度を両立させる手法は、ポスト・バップ以降のピアニストや作編曲家にとって重要な参照点となっている。
まとめ
Now He Beats The Drum-Now He Stopsは、叩くと止むの交替が生むドラマを軸に、コリアの知的かつ身体的なピアノ観を凝縮した一曲。1968年の稀有なトリオが示した緊密な相互作用は、アコースティック期コリアの到達点として現在も鮮烈であり、ジャズ・トリオ表現の可能性を拡張した記念碑的トラックといえる。