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Now He Sings Now he Sobs

  • 作曲: COREA CHICK
#スタンダードジャズ
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Now He Sings Now he Sobs - 楽譜サンプル

Now He Sings Now he Sobs|楽曲の特徴と歴史

基本情報

「Now He Sings Now he Sobs」は、チック・コリアが作曲したピアノ・トリオのインストゥルメンタル。1968年発表の同名アルバムに収録され、コリア(p)、ミロスラフ・ヴィトウス(b)、ロイ・ヘインズ(ds)が参加する。歌詞は存在せず、作詞者は情報不明。アルバムと同一タイトルの楽曲として位置づけられ、コリア初期を代表する重要作の一つとみなされる。

音楽的特徴と演奏スタイル

自由度の高いフォームの中で、短い動機やハーモニック・センターを拠点に即興が展開するのが特徴。明確な16小節や32小節の定型に縛られず、テンポの推進力と休符のコントラストで緊張感を生む。コリアの乾いたアタックと分散和音、クォータルなボイシングが響きの軸となり、ヘインズのしなやかなシンバル・ワーク、ヴィトウスの反応の早いベースが三者会話的インタープレイを形成する。結果として、モーダルな滞留と急速な発散が交互に現れ、ダイナミクスの振幅が聴きどころとなる。

歴史的背景

録音当時のジャズはハードバップからポスト・バップ、自由度の高いアプローチへと拡張していた時期で、コリアもその推進役の一人だった。1968年にはマイルス・デイヴィスのバンドでも活動を始め、エレクトリック期の扉を開く以前に、アコースティック・トリオでの美学を確立した。本作はその端緒を示す記録として位置づけられ、以後のコリアの作曲・即興語法に通じる要素がすでに成熟している点が重要である。

有名な演奏・録音

決定的な演奏としては、1968年のオリジナル・トリオによるアルバム収録テイクが挙げられる。鋭いアタックと急峻なダイナミクスの変化、モーダルな滞留と解放の往還が、曲名どおり“歌い”“嗚咽する”かのような起伏を生む。以後の著名なカバーや特筆すべき映像作品での使用については情報不明だが、当該テイクは作品理解の基準点として広く参照されている。

現代における評価と影響

ピアノ・トリオにおける相互作用のモデルケースとして、研究や批評で言及され続けている。特に、テーマ回帰よりも瞬間ごとの連鎖で構造を築くアプローチ、ハーモニーの開放性とリズムの弾力性は、後続世代の演奏美学に影響を与えた。技巧と叙情、緊張と解放のバランスが秀逸で、三者の個性が等価に響く設計は今日でも示唆的である。

まとめ

「Now He Sings Now he Sobs」は、歌詞を持たないインストゥルメンタルでありながら、語るようなフレージングと緊密な対話で強い物語性を生む。1968年の録音はチック・コリア初期の頂点であり、ピアノ・トリオ表現の可能性を押し広げた記念碑的トラックとして、現在も聴く者に鮮烈なインパクトを与え続けている。