Chovendo na Roseira(Double Rainbow)
- 作曲: JOBIM ANTONIO CARLOS

Chovendo na Roseira(Double Rainbow) - 楽譜サンプル
Chovendo na Roseira(Double Rainbow)|楽曲の特徴と歴史
基本情報
アントニオ・カルロス・ジョビン(Tom Jobim)によるボサノヴァの名曲。原題「Chovendo na Roseira」は「バラの木に降る雨」を意味し、英題「Double Rainbow」としても広く知られる。初出は1970年のアルバム『Stone Flower』に収録された録音で、以後ジャズ/ボサノヴァ双方の文脈で演奏頻度が高い。歌詞の正式クレジットは版により表記差があり確定情報は情報不明。ポルトガル語詞・英語詞いずれでも歌われ、器楽曲としても定着した国際的スタンダードである。
音楽的特徴と演奏スタイル
穏やかなボサノヴァの拍感の上に、雨粒が落ち続けるような連綿とした旋律線が特徴。長めのフレーズと滑らかな内声進行、拡張和音(9thや11thなど)を多用する和声言語が、透明感と華やぎを同時に生む。ギターやピアノは分散和音と繊細なシンコペーションで空間を描き、ベースは流麗なウォーキングとルート中心の支えを使い分ける。ヴォーカルでは息の混じる柔らかな発声が相性良く、ポルトガル語の母音連続や英語詞の語感にも自然に寄り添う。テンポやキーは演者によって幅があり、室内楽的な少人数編成からストリングスを伴うオーケストレーションまで適応する。
歴史的背景
本曲は、ジョビンが米国市場での活動を本格化させ、ジャズ的洗練と管弦楽法を融合させた時期に生まれた。1970年の『Stone Flower』での洗練されたアレンジは、静謐さと官能性を併せ持つCTI期の美学を象徴する。その後、1974年の名盤『Elis & Tom』でエリス・レジーナのポルトガル語歌唱により楽曲の抒情性が広く認知され、歌ものとしての評価が決定づけられた。英語題「Double Rainbow」の普及は北米のジャズ・シーンでの浸透を後押ししたが、英語詞の公式クレジットは情報不明である。
有名な演奏・録音
代表的な録音として、アントニオ・カルロス・ジョビン『Stone Flower』(1970)における官能的な演奏がまず挙げられる。加えて、エリス・レジーナとジョビンの共演盤『Elis & Tom』(1974)は、ポルトガル語歌唱の決定版として長く参照されてきた。以後、英題「Double Rainbow」を冠したカバーが国際的に広がり、ジャズ・ヴォーカルやモダン・ジャズの器楽作品集にも頻繁に収録されているが、網羅的な録音リストは情報不明。
現代における評価と影響
本曲は、セッション現場でのボサノヴァ・レパートリーとして定番化し、和声進行やリズム処理の教材としても取り上げられることが多い。自然描写を音楽に落とし込むジョビンの作曲術は、映画音楽やシンガー・ソングライター的文脈にも影響を与え、静けさと色彩感を両立させる編曲の参照例として現代でも価値が高い。多言語で歌える普遍性、器楽で映える構造的強度が、世代や国境を超えて演奏され続ける理由となっている。
まとめ
Chovendo na Roseira(Double Rainbow)は、雨の情景を想起させる旋律美と洗練された和声、そして歌・器楽の双方に適応する柔軟性を備えたジョビン屈指のスタンダードである。1970年の初出以降、数多の名演を生みながら現在も更新され続ける“生きた古典”として、ボサノヴァ/ジャズ史に確固たる位置を占めている。