Estrada Branca (This Happy Madness)
- 作曲: JOBIM ANTONIO CARLOS

Estrada Branca (This Happy Madness) - 楽譜サンプル
Estrada Branca (This Happy Madness)|楽曲の特徴と歴史
基本情報
Estrada Branca(英題:This Happy Madness)は、アントニオ・カルロス・ジョビン作曲のボサノヴァ起源の楽曲で、ジャズ・スタンダードとしても広く親しまれている。ポルトガル語詞はヴィニシウス・ジ・モラエス、英語詞はジーン・リーズに帰されることが一般的だが、初出年や初録音の詳細は情報不明。原題は「白い道」を想起させる詩的なイメージを帯び、英題は恋の陶酔を含む逆説的なニュアンスを示す。ヴォーカル曲としても器楽曲としても演奏され、ボサノヴァとモダン・ジャズの橋渡し的レパートリーとなっている。
音楽的特徴と演奏スタイル
穏やかな中庸テンポのボサノヴァ・グルーヴを土台に、柔らかなシンコペーションと洗練された拡張和音が織りなす、ジョビンらしいハーモニーが魅力。旋律は内省的で、半音階的な内声進行や繊細な緊張と解放を活かしたコード運びが印象的である。ギターの定型パターンやピアノのクローズド・ヴォイシングに乗せ、ヴォーカルはポルトガル語/英語いずれでも自然に収まる。演奏現場ではルバート気味の前奏からボサノヴァのパルスへ入るアレンジや、ソロでのリハーモナイズ、終盤での静かなコーダ処理などが好まれる。
歴史的背景
1950年代末のリオで醸成されたボサノヴァ運動におけるジョビンとモラエスの共同作業の文脈に位置づけられる一曲で、都市的洗練とサウダージが共存する作風を体現する。英語詞の付与により1960年代以降は北米のジャズ・シーンへ浸透し、クラブやコンサートでスタンダードとして扱われるようになった。商業的リリースの詳細な時系列や初演の場は情報不明だが、国境と言語を越えて定着した背景には、旋律と和声の普遍性が大きく寄与している。
有名な演奏・録音
この曲はジョビン自身をはじめ、多くのボサノヴァ/ジャズ系アーティストにより再演されてきた。ギターと声による繊細なデュオ、ピアノ・トリオの室内楽的な解釈、サックス主導の抒情的バラードなど、多様な編成に適応する柔軟性がある。英語題でのヴォーカル録音も多く、スタンダード集やライヴ盤に収められる機会が多い。一方で、決定的な初録音や代表盤の特定情報は情報不明であり、国や時代を跨いだ広範なディスコグラフィの中で息長く演奏されている。
現代における評価と影響
今日ではボサノヴァとジャズの双方で教育的・実演的価値が高いレパートリーと認識され、音大のアンサンブルやワークショップで扱われる機会も多い。移調やテンション付与に耐える和声構造、言語を選ばない歌唱適性が、プロ/アマ問わず演奏者に支持される理由である。配信時代においてもプレイリストやカヴァー動画を通じて再発見が進み、静かな情感と都会的洗練を併せ持つ“現代の古典”としての評価を強めている。
まとめ
Estrada Branca(This Happy Madness)は、ジョビンの抒情性と高度なハーモニー感覚が結晶したボサノヴァ由来のジャズ・スタンダードである。確定的な初出情報は情報不明ながら、多言語で歌われ、器楽でも映える普遍性ゆえに国際的レパートリーとして定着した。穏やかなビートの中に繊細な感情を刻む本曲は、演奏者には表現力と和声理解を、聴き手には静かな恍惚をもたらす、時代を超える名曲と言える。