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In The Mood
- 作曲: GARLAND JOSEPH C

In The Mood - 楽譜サンプル
In The Mood|楽曲の特徴と歴史
基本情報
『In The Mood』は、作曲者Joseph C. Garland(ジョー・ガーランド)によるスウィング・ジャズの代表曲。歌詞版も存在し、作詞はAndy Razafだが、一般には器楽曲として親しまれる。形式は12小節ブルースを基盤とし、反復するリフとセクション間の応答で構築される。決定的なヒットは1939年、グレン・ミラー楽団の録音で広く知られるようになった。
音楽的特徴と演奏スタイル
最大の特徴は、サクソフォン・セクションのユニゾンによるキャッチーなリフと、ブラスの応答が生む推進力にある。中盤にはテナー・サックスのソロやストップ・タイムのブレイクが配され、終盤には音量を落としてから再度盛り上げる“フェイク・エンディング”が用いられる。ダンス向けの軽快なスウィング感、明確なダイナミクス、緻密なボイシングが演奏上の肝要点だ。アンサンブルでは、低音部のウォーキング感とリフのアーティキュレーション統一が不可欠である。
歴史的背景
1930年代後半、全米でダンス向けビッグバンドが隆盛する中、ガーランドは既存のリフ・チューンの伝統を踏まえて本作をまとめ上げた。モチーフはWingy ManoneのTar Paper Stomp(1930)やFletcher Henderson周辺の演奏で用いられたリフと関係が指摘される。ガーランドのアレンジは複数の楽団に提供されたのち、グレン・ミラー版で決定版として定着し、スウィング時代の象徴的ナンバーとなった。
有名な演奏・録音
最も著名なのは1939年のグレン・ミラー楽団によるBluebirdレーベル録音で、彼の代表曲として定着した。ガーランド自身が関わった編成や、Edgar Hayes楽団の初期録音も資料的価値が高い。第二次世界大戦期には、グレン・ミラー陸軍航空軍楽団でも頻繁に演奏され、戦時下の士気高揚に寄与した。映画『グレン・ミラー物語』(1954)でも印象的に使用され、一般層にもそのメロディが広く浸透した。
現代における評価と影響
『In The Mood』は、ジャズ史・ポピュラー音楽史双方で“スウィング時代”を象徴する一曲として位置づけられる。ビッグバンドの定番レパートリーとして学校・市民バンドでの演奏機会も多く、入門曲でありながらアンサンブル精度を問う教材としても機能する。テレビや映画で1940年代を示す音響記号として使われ続け、広告やイベントでも頻繁に採用されるなど、世代を超えて知名度を維持している。
まとめ
キャッチーなリフ、巧妙なアレンジ、ダンス性の三拍子がそろった『In The Mood』は、ジョー・ガーランドの筆致と時代の要請が結実した名曲である。代表的録音や版によるアレンジの差異を聴き比べることで、同一素材が持つ多面的な魅力と、スウィング・ジャズの構築美をより深く味わえるだろう。