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I Can't Get Started

  • 作曲: DUKE VERNON
#スイング#スタンダードジャズ
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I Can't Get Started - 楽譜サンプル

I Can't Get Started|楽曲の特徴と歴史

基本情報

I Can't Get StartedはVernon Duke(表記:DUKE VERNON)作曲、Ira Gershwin作詞による1936年発表のスタンダード・ナンバー。別名“I Can't Get Started (With You)”とも表記され、歌詞付き・インストの双方で広く演奏される。アメリカン・ソングブックを代表する楽曲のひとつで、ジャズ界ではバラードの定番として定着。恋愛のもどかしさを洒脱な比喩で描く歌詞と、抒情的で起伏に富む旋律が魅力である。初演の舞台作品や初出の具体的クレジットについては情報不明とするが、のちの録音群が曲の評価を決定づけた。

音楽的特徴と演奏スタイル

32小節のAABA形式(多くの版で前置きのヴァースを伴う)を基本とし、A部は流麗な旋律線と豊かな内声進行、B部は和声的な転調感でドラマを生む。バラード・テンポで歌い上げるのが一般的だが、ミディアムにテンポを上げたスウィング解釈も少なくない。トランペットやテナーサックスが旋律を朗々と歌い、ルバートのイントロからリズム・インする構成が定番。調性は演者により可変で、クロマチックなつなぎや代理和音を活かした再ハーモナイズもよく行われる。ヴォーカルでは語り口とフレージングのコントロールが聴きどころとなる。

歴史的背景

1930年代のスウィング期に生まれ、洗練されたメロディとウィットに富む歌詞で瞬く間に注目を集めた。Vernon Dukeは“Autumn in New York”などで知られる名匠で、本曲でも叙情と構築性のバランスが際立つ。Ira Gershwinの詞は、世俗的成功を列挙しつつも恋だけは思うように始められないという逆説を描写し、当時の都会的感性に合致。劇場由来の楽曲がジャズ・バンドや歌手に取り上げられ、ダンスホールからラジオを通じて広く普及していった。

有名な演奏・録音

特筆すべきは1937年、トランペッターのバニー・ベリガンによる録音で、彼の象徴的レパートリーとなった名演。伸びやかなミュート・トーンと歌心が、曲のポテンシャルを決定的に示した。また、1950年前後のCharlie Parker with Stringsによる繊細なバラード解釈は、管楽器が歌を超える表現を示した代表例として知られる。以降、多数のヴォーカリストやサックス奏者、ピアニストがレコーディングを重ね、ライブでも定番曲として位置づけられている。他の代表的な録音の網羅的リストは情報不明。

現代における評価と影響

現在もセッションやリサイタルで頻繁に取り上げられ、教育現場でもバラード表現やメロディの歌わせ方を学ぶ教材として重用される。リアルブック等の譜面集にも広く収載され、アレンジの自由度が高いことから、ハーモニー再構築やテンポ・メドレーなど多彩なアプローチが可能。歌詞のテーマは時代を超えて共感を呼び、器楽でも言葉の抑揚を想起させるフレージングが求められる点で、学習者からプロまで挑戦しがいのある一曲である。

まとめ

I Can't Get Startedは、洗練された旋律、含意に富む歌詞、そして名手たちの録音史によって磨かれた不朽のスタンダードである。バニー・ベリガンをはじめとする名演が曲の価値を確立し、その後も解釈の幅は広がり続けている。バラード表現を極めたい奏者・歌い手にとって、今なお避けて通れない重要レパートリーと言える。