Tiger Rag
- 作曲: DE COSTA HARRY, EDWARDS EDWIN B, LA ROCCA D JAMES, SBARBARO ANTHONY

Tiger Rag - 楽譜サンプル
Tiger Rag|楽曲の特徴と歴史
基本情報
Tiger Ragは、DE COSTA HARRY、EDWARDS EDWIN B、LA ROCCA D JAMES、SBARBARO ANTHONYによるクレジットで知られるジャズ・スタンダード。1917年に初期ジャズの中心的存在だったOriginal Dixieland Jass Band(ODJB)が録音し広く流布した。楽曲は主として器楽曲として親しまれ、のちに掛け声や歌詞を伴う版も流通したが、作詞者については資料により異同があり確定情報は情報不明とする。演奏現場では「Hold that Tiger」というフレーズで知られることが多いが、歌詞の全文が作品の本質ではなく、アンサンブルの推進力と躍動感こそが魅力である。
音楽的特徴と演奏スタイル
ラグタイム由来の複数ストレインを連ねる構成を持ち、明快なリフと強いシンコペーション、軽快でしなやかな2ビート感が核となる。トランペット、クラリネット、トロンボーンの三管が織りなすコレクティヴ・インプロヴィゼーション、要所のブレイクやストップタイムが熱気を生み、テンポはしばしば高速。ピアノ独奏では分散和音の連打や高速パッセージで技巧を披露する版も多い。メロディは記憶に残る反復句を軸に、各コーラスで装飾と変奏が重ねられ、ソロとアンサンブルの対比でクライマックスを築く。
歴史的背景
ニューオーリンズで成熟したダンス音楽の語法を受け継ぎ、ODJBの商業録音を通じて1910年代後半のアメリカおよび欧州へ一気に拡散。シーン黎明期の重要録音群の中でも、Tiger Ragはジャズを大衆に印象づけた象徴曲の一つとなった。即興の推進力とラグ的構造の折衷は、のちのスウィング期にも接続し、ジャズがダンスと芸術性を併せ持つ表現であることを示した。出版・録音年の細部には資料差があるが、1917年の録音・普及が大きな転機である点は広く認められている。
有名な演奏・録音
出発点となるOriginal Dixieland Jass Bandの録音は、初期スタイルの勢いを捉えた歴史的資料であり定番参照源。Louis Armstrongによる演奏は、フレージングとスウィング感で楽曲の可能性を拡張した例として語られる。ピアノではArt Tatumの超絶技巧版が著名で、スピードと和声処理の妙で別次元の輝きを与えた。またThe Mills Brothersのヴォーカル版は、声による擬音的アレンジでポピュラリティを獲得し、曲の浸透を後押しした。
現代における評価と影響
今日でもトラディショナル・ジャズやディキシーランド系のセッションで頻繁に取り上げられ、アンサンブルの呼吸、ブレイクのキメ、テンポ維持など基礎力を測る“試金石”として機能する。マーチングやスポーツ応援での採用例も多く、鋭いリフと「Hold that Tiger」の掛け声は大衆的な認知度が高い。教育現場では、早期ジャズの語法やコレクティヴ・インプロヴィゼーションの学習教材としても重宝され、世代を越えて演奏され続けている。
まとめ
Tiger Ragは、シンプルな動機と複数ストレインの構造、そして推進力のあるアンサンブルが生む高揚で、ジャズ史の出発点を体現する作品である。初期録音の勢いからピアノ独奏の超絶技巧版まで、多様な解釈を許容する懐の深さが普遍性の源泉だ。歌詞付き版の存在は周知ながら作詞情報は情報不明とし、楽曲本体の器楽的魅力に焦点を当てるのが妥当だろう。今なおセッション現場と大衆文化の双方で生き続ける、この“疾走する古典”の息の長さこそが評価の証左である。