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Down In The Depths

  • 作曲: PORTER COLE
#スタンダードジャズ
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Down In The Depths - 楽譜サンプル

Down In The Depths|楽曲の特徴と歴史

基本情報

「Down in the Depths (on the Ninetieth Floor)」は、PORTER COLE(一般的表記:コール・ポーター)が1936年のブロードウェイ・ミュージカル『Red, Hot and Blue!』のために書いた歌詞付きバラード。初演はエセル・マーマンで、作品中の内省的なナンバーとして知られる。のちにジャズ/ポップ分野で広く取り上げられ、グレイト・アメリカン・ソングブックを代表する一曲として定着した。初出年は1936年。ジャンルはジャズ・スタンダードに分類される。

音楽的特徴と演奏スタイル

テンポはゆったりしたバラードが基本で、陰影に富む和声と半音階的な進行が感情の揺らぎを描く。ヴァースからコーラスへと展開する標準的な形式だが、コーラス部では音域の跳躍や下降線形を用い、題名が示す“深み”のイメージを音楽的に喚起する。伴奏はリッチな拡張コードを好み、ルバートを活かした語り口が映える。ジャズの現場ではキーやテンポを柔軟に変え、ピアノ・トリオやギター伴奏での親密な設定からビッグバンドの抒情的アレンジまで幅広く機能する。物語性が強いため、ダイナミクスのコントロールと歌詞のディクションが解釈の鍵となる。

歴史的背景

本曲は大恐慌後のニューヨークを背景に生まれ、摩天楼文化と都会的洗練を得意とするポーターの美学が反映されている。『Red, Hot and Blue!』は娯楽性の高い作品だが、この曲は華やかさの裏に潜む孤独と自己省察を示し、舞台の感情的支点として機能した。富と孤独の対比というテーマは当時の都市生活者に普遍的な共感を呼び、舞台を離れても独立曲として歌い継がれる土壌を作った。

有名な演奏・録音

初演者エセル・マーマンの舞台歌唱は歴史的に重要で、強靭なブロードウェイ・スタイルの原点を示す。レコーディング面では、エラ・フィッツジェラルドが1956年の『Sings the Cole Porter Song Book』で取り上げ、繊細かつ端正な解釈で評価を決定づけた。その後も多くのジャズ・ヴォーカリストやキャバレー歌手がレパートリー化し、ピアノ弾き語りからオーケストラ伴奏まで多様なアレンジが残されている。

現代における評価と影響

今日では、アメリカン・ソングブックを扱うコンサートや教育現場でしばしば取り上げられる。歌詞の巧緻な比喩と構築的なメロディは、ヴォーカル表現の教材としても価値が高い。また、シティポップ的洗練やジャズのハーモニー語法との親和性から、現代アレンジでも魅力を保ち続ける。舞台再演やトリビュート企画でも存在感を発揮し、世代を超えて聴かれ続けるスタンダードとして位置づけられている。

まとめ

「Down in the Depths」は、洗練と孤独のコントラストを音楽と言葉で精緻に描いたポーターの代表曲の一つ。舞台発のバラードながら、ジャズ・スタンダードとして多彩な解釈を生み、録音史にも豊かな系譜を築いた。歌詞の全文はここでは扱わないが、その主題と音楽性は今なお新鮮で、演奏者にも聴き手にも深い余韻を残す。