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S' Wonderful

  • 作曲: GERSHWIN GEORGE
#スイング#スタンダードジャズ
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S' Wonderful - 楽譜サンプル

S' Wonderful|楽曲の特徴と歴史

基本情報

S' Wonderfulは、作曲家ジョージ・ガーシュウィンによる楽曲で、1927年のブロードウェイ・ミュージカル『Funny Face』で初演された。作詞はアイラ・ガーシュウィン。ジャズの現場では定番のスタンダードとして広く知られ、アメリカン・ソングブックを代表する一曲に数えられる。タイトルの“S'”は“It's”の口語的省略を反映し、歌詞全体も軽やかなウィットと会話調の表現で構成される。形式は典型的な32小節AABA形式で、テンポや解釈の幅が広く、ボーカル・ナンバーとしても器楽曲としても親しまれている。

音楽的特徴と演奏スタイル

明快なAセクションの主題と、和声進行に富むBセクション(ブリッジ)が対照を生む構成が魅力。主要調は演奏により異なるが、ジャズではE♭長調などで取り上げられることが多い。和声は副次ドミナントや循環進行を活用し、ソロ即興に十分な余白を提供。ボーカルはミディアム・スウィングでの軽快なアタックが映える一方、ルバート気味のバラード解釈や、ボサノヴァへの置き換えも効果的だ。内声の動きや経過音を活かしたリハーモナイズも盛んで、コンピングのヴォイシング次第で、洒脱さから官能的ニュアンスまで幅広い表情を引き出せる。

歴史的背景

1920年代後半、ガーシュウィン兄弟はブロードウェイとティン・パン・アレーの文脈で、都会的センスとジャズ語法を融合した楽曲を次々と発表。S' Wonderfulは、その成果を象徴する一編で、日常語を巧みに織り込む歌詞と洗練された旋律・和声が、ダンスホール文化と劇場音楽の潮流に合致した。戦後には映画でも再評価が進み、舞台発のナンバーが大衆的ヒットへ拡張される道筋を示した。こうして本曲は、舞台→映画→ジャズ・クラブという回路を通じて普及し、世代を超えるレパートリーへと定着した。

有名な演奏・録音

映画『巴里のアメリカ人』(1951)でのパフォーマンス、さらに『パリの恋人』(1957)でも取り上げられ、映像作品を通じて世界的に浸透。レコーディングでは、エラ・フィッツジェラルドが1959年の『Gershwin Song Book』で洗練された解釈を残し、ボーカルの決定版として評価が高い。ボサノヴァ解釈ではジョアン・ジルベルトの録音が知られ、スタイルの可塑性を証明。さらにダイアナ・クラール(2001年)など、後続のシンガー/インスト奏者も多数録音し、各時代のサウンドで更新され続けている。

現代における評価と影響

S' Wonderfulは、ジャズ教育と実演の双方で頻繁に扱われる標準曲であり、セッションでも共通語のように機能する。明快なメロディと整理されたAABA構造は、ボーカル表現の運びや即興の設計を学ぶ素材として理想的。加えて、リズム処理やテンポ設定、リハーモナイズの工夫により、クラシック寄りの室内編成からスウィング・ビッグバンド、ラテン・アダプテーションまで柔軟に適応できる点が、プロ・アマ問わず支持を集める理由となっている。

まとめ

舞台生まれの名曲としての品位と、ジャズ・スタンダードとしての懐の深さを兼ね備えるS' Wonderful。洒落た言葉遣いとエレガントな旋律は、時代を超えて新鮮さを失わない。映画を通じた広がり、数々の名演、そして多様な解釈を許容する構造が、今日まで演奏され続ける原動力である。初学者にとっては形の良いアプローチ教材に、熟練奏者にとっては表現の幅を試す格好のキャンバスとなるだろう。