I Should Care
- 作曲: CAHN SAMMY, STORDAHL AXEL, WESTON PAUL

I Should Care - 楽譜サンプル
I Should Care|楽曲の特徴と歴史
基本情報
I Should Careは、作詞サミー・カーン、作曲アクセル・ストーダルとポール・ウェストンによる1944年発表の楽曲。アメリカン・ソングブックに属するバラードで、歌詞を伴うポピュラーソングとして生まれ、後に多くのジャズ演奏家に取り上げられてスタンダード化した。別離や未練を静かに見つめる内省的な内容が核にあり、情感豊かなメロディはヴォーカルにも器楽にも適する。初出の映画やチャート詳細は情報不明だが、戦後直後の録音を通じて広く知られるようになった。
音楽的特徴と演奏スタイル
形式は典型的な32小節のAABA。滑らかな旋律線に対し、機能和声に基づくII–V進行や一時的な転調が配され、バラードでのレガート唱法やリリカルなピアノ・ヴォイシングと好相性。テンポは主にスローからミディアム、ヴォーカルではルバートを交える解釈も多い。ジャズではリハーモナイズが盛んで、内声の半音進行を強調した置換和音、サブドミナント・マイナーの扱い、後半でのテンション拡張などが定番。アドリブはメロディの情感を保ちながら、Aセクションでのモチーフ展開、Bセクションでのレンジ拡大によるダイナミクス形成が効果的とされる。
歴史的背景
作曲陣はいずれも米国ポピュラー音楽の重要人物で、特にストーダルとウェストンはビッグバンド期から活躍した名編曲家。戦中から戦後にかけ、洗練されたバラード様式がラジオやレコードを通じて一般化するなか、本曲は親密で抒情的なサウンドを代表する一曲となった。生まれはポピュラー領域だが、メロディと和声の懐の深さが即興演奏に適し、1950年代以降のモダン・ジャズのレパートリーに自然に定着していく。
有名な演奏・録音
ヴォーカルではフランク・シナトラによる1945年の録音が広く知られ、端正なフレージングが楽曲の魅力を際立たせた。ピアノではセロニアス・モンクが1957年のアルバム『Thelonious Himself』で内省的かつルバート主体の解釈を提示し、バラードとしての新境地を示した。さらにビル・エヴァンスは『Explorations』(1961年)で繊細なボイシングとリリシズムを強調し、現代ピアノ・トリオの文脈に定着させた。これらの録音は、同曲がヴォーカル/インストゥルメンタル双方で生きることを示す代表例である。
現代における評価と影響
今日ではジャズ教育現場やセッションで頻繁に扱われる定番レパートリー。歌詞の内省性と、コード進行の柔軟性が、歌い手には感情表現の幅を、インスト奏者にはハーモニックな探究の余地を提供する。録音・配信環境の多様化により、テンポ設定やリハーモナイズの手法も拡張され、ミニマルな伴奏から豊潤なオーケストレーションまで解釈の幅が広がっている。
まとめ
I Should Careは、哀感を帯びたメロディと堅実なAABA構造によって、時代やスタイルを越えて演奏され続ける名曲である。ポピュラーに端を発しつつ、ジャズ・スタンダードとして成熟した本作は、ヴォーカルの語り口にも器楽の即興にも強い存在感を与え、今なお新たな解釈を呼び込んでいる。