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Very Thought Of You ,The

  • 作曲: NOBLE RAY
#スタンダードジャズ#映画音楽
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Very Thought Of You ,The - 楽譜サンプル

Very Thought Of You ,The|楽曲の特徴と歴史

基本情報

一般的表記は“The Very Thought of You”。作曲者はイギリスのバンドリーダー、レイ・ノーブル(Ray Noble)。1934年にレイ・ノーブル楽団と看板歌手アル・ボウリー(Al Bowlly)の歌唱で発表され、イギリス発のポピュラー・ソングとして大西洋を越えて人気を博した。作詞もノーブル自身によるもので、恋する相手を思うだけで世界が輝くという親密かつ端正なロマンティシズムが核にある。のちにアメリカでも定番化し、ジャズやポピュラー歌手の重要レパートリーとして歌い継がれることになる。

音楽的特徴と演奏スタイル

テンポは概ねスロウからミディアム・スロウのバラード。32小節のAABA型に属する典型的なスタンダードで、流麗な旋律線と自然な声域の設定が特徴。和声は滑らかな進行を軸に、要所で半音階的な経過やセカンダリー・ドミナントを用い、甘美だが過剰に装飾的ではない。ヴォーカルではルバートを織り交ぜた歌い出しや、終止部でのブレスの置き方に表現の余地が大きい。インスト演奏ではレガート重視のアプローチが好まれ、テナーサックスやフリューゲルホルンなど柔らかな音色が映える。ストリングス編成やピアノ・トリオでも映え、ハーモニーの置き換えやテンポの引き伸ばしにも耐える懐の深さを持つ。

歴史的背景

1930年代前半の英国ダンス・バンド黄金期に生まれ、上質な言葉と旋律で“洗練された都会派ロマンス”のイメージを確立。アル・ボウリーの柔らかなクローニング・スタイルが楽曲の方向性を決定づけ、その後アメリカでの受容を大きく後押しした。発表直後から放送やレコードで広まり、1930年代後半にはアメリカの歌手やジャズ・ミュージシャンのレパートリーへと定着。グレイト・アメリカン・ソングブック周辺の重要曲としてカノン化していく。

有名な演奏・録音

初演の決定版として、レイ・ノーブル楽団+アル・ボウリー(1934)。ビリー・ホリデイ(1938)は繊細な節回しで情感を更新し、楽曲の解釈幅を広げた。ナット・キング・コールはアルバム“The Very Thought of You”(1958)で円熟のバラード表現を示し、ストリングスとの相性の良さを印象づける。フランク・シナトラはロバート・ファーノン編曲による1962年の録音で、格調高い英国録音の空気感を残した。これらは歌唱・編曲双方の観点で基準とされ、後の歌手やジャズ奏者の参照点となっている。

現代における評価と影響

現在もヴォーカル・ジャズやラウンジ、結婚式の選曲で定番視され、教育現場の教材やフェイクブックにも収録され続ける。歌詞と旋律の親和性が高く、テンポや編成を問わず成立するため、若手からベテランまで取り上げやすい。配信時代以降も名唱・名演の再発やリマスターが進み、新たなリスナーを獲得。結果として、20世紀前半の英国発ポピュラーソングが、時代・地域を超える普遍的なロマンス表現として存続している好例となっている。

まとめ

「The Very Thought of You」は、穏やかな旋律と端正な和声、言葉の美しさが三位一体となったジャズ・スタンダード。1934年の誕生以来、多様なアレンジに耐える柔軟性で愛奏されてきた。初演から名歌手たちの解釈に至るまで、その魅力は一貫して“思うこと”の喜びを音にする点にある。今後もバラード表現を学ぶ際の指標であり続けるだろう。