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I'm Through With Love (バース付き)
- 作曲: KAHN GUS,LIVINGSTON JOSEPH A,MALNECK MATT

I'm Through With Love (バース付き) - 楽譜サンプル
I'm Through With Love (バース付き)|楽曲の特徴と歴史
基本情報
1931年発表のアメリカン・ソングブックの一曲。作詞はGus Kahn、作曲はMatty MalneckとFud(Joseph A.)Livingston。タイトルにある「バース付き」は、本編のAABA型コーラスの前に語り口の序章(verse)が加わる版を指し、歌の心情を導入する重要な役割を担う。端的なメロディと端整な和声運びが特徴で、シンガーにとって表情づけの幅が大きいバラードとして親しまれている。
音楽的特徴と演奏スタイル
本編は32小節AABA形式。トニックからサブドミナント、続くセカンダリー・ドミナントや下降クロマティックを用いた和声が、諦念と切なさを描く。多くの演奏で、バースは自由テンポのルバートで始まり、コーラスで4ビートのバラードへ移行する。ボーカルでは語尾の間合いやブレスが表現の肝となり、器楽ではミュート・トランペットやテナー・サックスが歌心を活かして演奏されることが多い。
歴史的背景
大恐慌期のティン・パン・アレーで生まれた流行歌が、戦後のジャズ・シーンで定番化した典型例。Kahnの平易で胸に迫る言葉と、Malneck/Livingstonの端正な旋律が高い親和性を示し、クローナー系歌手からモダン・ジャズの奏者まで広く受け継がれた。出版会社や初演の詳細は情報不明だが、1930年代前半から継続的に録音・演奏され、スタンダードとして定着していった。
有名な演奏・録音
初期の代表例としてBing CrosbyがGus Arnheim楽団とともに1931年に録音。1956年にはChet Bakerがアルバム「Chet Baker Sings」で繊細に歌い直し、曲の儚さを現代的に提示した。さらに1959年の映画『お熱いのがお好き』(Some Like It Hot)ではMarilyn Monroeが劇中で歌唱し、ジャズ愛好家以外にもタイトルを強く印象づけた。以降も多数の歌手・奏者が名演を残している。
現代における評価と影響
今日ではシンガーのレパートリーとして定番であり、バラード解釈の教材曲としてもしばしば選ばれる。バースを付けるか省くか、テンポの揺らぎやリハーモナイズの度合いなど、解釈の余地が大きく、演奏家の美学が反映されやすい。多くのスタンダード集に掲載され、ジャズ・クラブや音楽教育の現場で継続的に演奏されている。
まとめ
簡潔ながら余韻の深い旋律と、Kahnの率直な言葉が心に残る名バラード。バース付きの構成を活かすことで物語性が一層際立ち、聴き手を静かに引き込む。1931年の誕生以来、録音史と映画での訴求に支えられて普遍的レパートリーとなり、今後もジャズ・スタンダードとして歌い継がれていくだろう。