Doxy
- 作曲: ROLLINS SONNY

Doxy - 楽譜サンプル
Doxy|楽曲の特徴と歴史
基本情報
「Doxy」は、テナーサックス奏者ソニー・ロリンズが作曲したジャズ・スタンダード。初出は1954年、マイルス・デイヴィス名義のPrestige録音で、のちにアルバム『Bags' Groove』に収録された。形式は16小節で、シンプルかつ覚えやすいテーマが魅力。歌詞の存在は一般的ではなく、主にインストゥルメンタルとして演奏される。コンボ編成でのヘッド・ソロ・ヘッドという伝統的な演奏様式に最適化された、セッション現場での定番曲である。
音楽的特徴と演奏スタイル
和声はI–VI–II–Vを基調とする循環進行で、1918年のポピュラー曲「Ja-Da」のコードを下敷きにしたとされる。キーはBbで演奏されることが多く、ミディアム・スウィングのテンポが定番。メロディは音域が狭く、リズムの置き方とアーティキュレーションでキャラクターが際立つ。アドリブではガイドトーンを軸にしたライン構築や、ターンアラウンドの明確化が効果的。終止でのブレイクや、コーダでの簡潔なタグ付けなど、小技が映える余白も大きい。
歴史的背景
1954年、ロリンズが「Airegin」「Oleo」とともにマイルス・デイヴィスのPrestigeセッションに持ち込んだことで誕生期の評価が定まった。ハードバップ形成期の只中に生まれた同曲は、骨太なウォーキング・ベースと軽快なリフ感で、新世代の都会的なスウィング美学を体現。録音当時の二管フロントによる応答的フレージングは、以後のクインテット・サウンドの模範ともなり、クラブやジャムでの普及を後押しした。
有名な演奏・録音
最初期の決定的録音はマイルス・デイヴィス(tp)名義の1954年盤で、作曲者ロリンズ(ts)も参加。以降、ロリンズ自身のライブや各種コンボで繰り返し取り上げられ、彼の語り口の変遷—端正なリズム運びから豪放なモチーフ展開まで—を追うことができる。数多のジャズ・ミュージシャンがレパートリーに据え、セッションでキーやテンポを柔軟に変えて演奏されるのも本曲の普遍性を示す。
現代における評価と影響
「Doxy」は、16小節という扱いやすい長さと機能和声の明快さから、初学者がスウィング感やII–V–I処理を学ぶ教材として重宝される。一方で、上級者にとってはサブスティテューション、モチーフ開発、ダイナミクス設計など巧緻な工夫を映すキャンバスにもなる。教則譜やセッション曲集(いわゆる“定番集”)にも広く掲載され、世代や楽器を越えて継承されている。
まとめ
覚えやすいテーマと堅牢なコード進行を備えた「Doxy」は、誕生から現在に至るまでジャズ現場で息長く愛される曲だ。1954年の録音を入口に、テンポやキーを変えた多彩な解釈を聴き比べれば、シンプルな設計の中に潜む表現の奥行きが見えてくる。初めてのスタンダードにも、表現の幅を試す素材にも、確かな価値を持つ一曲である。