Why Don’t You Do Right?
- 作曲: MCCOY JOE

Why Don’t You Do Right? - 楽譜サンプル
Why Don’t You Do Right?|楽曲の特徴と歴史
基本情報
Why Don’t You Do Right? は、作曲者MCCOY JOE(カンザス・ジョー・マッコイ)によるジャズ/ブルースの名曲。1936年のHarlem Hamfatsによる「Weed Smoker’s Dream」を原型に、内容を改作して成立したとされ、ヴォーカル曲として広く普及した。決定的な初期録音はブルース・シンガー、リル・グリーンによる1941年のバージョンで、その後ペギー・リーがベニー・グッドマン楽団と共に1942年に録音し、ポピュラリティを一気に押し上げた。以降、女性ヴォーカルを中心に数多くのアーティストが取り上げ、今日ではジャズ・スタンダードとして定着している。
音楽的特徴と演奏スタイル
本曲はマイナー調のブルース語法を核にしたスウィング・フィールが要。多くの演奏で12小節系のブルース進行やウォーキング・ベース、軽く跳ねるシャッフル/スウィングのグルーヴが用いられ、低音域から立ち上がるベース・ラインが妖艶なムードを醸成する。ヴォーカルは語り口を生かした間合いとダイナミクスが命で、控えめな伴奏の上にブルーノートや装飾音を交えたメロディ解釈が映える。テンポは中速寄りが一般的だが、スロー・ブルース的にねっとり歌い込む解釈も多い。編成は小コンボからビッグバンドまで幅広く、ギターやピアノのコンピングとミュート・トランペット、テナー・サックスなどのオブリガートが雰囲気を支える。
歴史的背景
ジョー・マッコイは戦前ブルース界の重要人物で、Harlem Hamfatsの活動でも知られる。1936年録音の「Weed Smoker’s Dream」は、そのタイトルが示す通り内容が異なる原型で、後に歌詞と視点を再構成したのが「Why Don’t You Do Right?」である。1941年のリル・グリーン版がブルース~ジャズの現場で注目を集め、翌年のペギー・リー with ベニー・グッドマン録音がラジオとレコード市場で広く浸透。スウィング黄金期において、女性ヴォーカルが大人の色気や自立した語り口を表現するレパートリーとして定着していった。
有名な演奏・録音
代表的な初期録音は、リル・グリーン(1941)と、ペギー・リーがベニー・グッドマン楽団と残した1942年の名唱。後者はペギー・リーのキャリアを象徴する一曲としてしばしば言及される。また、1988年の映画『ロジャー・ラビット』ではキャラクターのジェシカ・ラビットが作中で歌唱し、世代を超えて曲の存在感を再確認させた。以後も多くのジャズ・ヴォーカリストやクラブ・シーンのアーティストが取り上げ、ライブの定番曲として録音・演奏が重ねられている。
現代における評価と影響
「Why Don’t You Do Right?」は、ブルースの骨格とジャズの洗練が交差する教材的な価値を持ち、ヴォーカルの表現力・時間感覚・言葉運びを学ぶ格好のレパートリーとして位置づけられる。キャバレーやクラブ、ビッグバンドのステージまで適応範囲が広く、編曲の自由度も高い。メディア露出やリバイバルの度に新規リスナーを獲得し、配信時代でも再生リストに入り続ける“歌うスタンダード”としての生命力を保っている。
まとめ
戦前ブルース由来の素材を、ジャズの表現へ橋渡しした名曲が「Why Don’t You Do Right?」である。マイナー・ブルースの官能性、語るように歌うヴォーカル、シンプルで強いグルーヴが、時代や編成を超えて魅力を放ち続ける。初期のリル・グリーンやペギー・リー録音を入口に、各時代の解釈を聴き比べれば、この曲がスタンダードと呼ばれる理由が一層鮮やかに見えてくるだろう。