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Waltz For Debby
- 作曲: EVANS BILL, LEES GENE

Waltz For Debby - 楽譜サンプル
Waltz For Debby|楽曲の特徴と歴史
基本情報
「Waltz For Debby」は、ピアニストのビル・エヴァンスが作曲し、のちにジーン・リーズが英語詞を付けたジャズ・スタンダード。曲名のとおり3/4拍子のワルツで、ビル・エヴァンスの代表作として広く知られる。初録音は1956年のアルバム『New Jazz Conceptions』で、以後もライヴやスタジオで幾度も取り上げられた。とりわけ1961年、ニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードでのトリオ録音は本曲を永遠の名曲へと押し上げた重要な記録である。曲名はエヴァンスの姪デビイに因むとされ、親密で叙情的な世界観が端的に表れている。
音楽的特徴と演奏スタイル
穏やかな3/4ビートにのる流麗なメロディと、繊細な内声の動きが核。エヴァンス特有のテンション豊かな和声、分散和音と密度の高いボイシングにより、静謐さと浮遊感が共存する。多くの演奏で、ルバートの自由な序奏から明確なワルツ・スイングへ移行し、トリオでは相互対話的なインタープレイが重視される。テンポはミディアム前後が一般的で、ピアノのレガートとベースのカウンターメロディ、ドラムのブラシ・ワークが立体的なテクスチャーを生む。歌詞版でも原曲の抒情性を損なわない繊細な伴奏が選ばれることが多い。
歴史的背景
1950年代後半、モダン・ジャズはハーモニーやリズム面で急速に洗練され、ピアノ・トリオの表現も革新期にあった。ビル・エヴァンスはその中心的人物のひとりで、本曲は彼の詩的で内省的な美学を象徴する。1961年のヴィレッジ・ヴァンガード公演での録音は、スコット・ラファロ(b)、ポール・モチアン(ds)との緊密なアンサンブルを刻み、以後のピアノ・トリオの指標となった。このセッションはジャズ史の重要な到達点として語り継がれ、本曲の評価を決定付けた。
有名な演奏・録音
代表例として、1956年『New Jazz Conceptions』の初録音、1961年ヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ収録(アルバム『Waltz for Debby』ほか)が挙げられる。さらに、スウェーデンの歌手モニカ・ゼタールンドがスウェーデン語詞版で歌った1964年の共演作も名高い。英語詞ではジーン・リーズによるボーカル・バージョンが広がり、トニー・ベネットとビル・エヴァンスの共演作(1975年)でも重要曲として取り上げられた。インストゥルメンタル、ボーカル双方で幅広く録音され続けている。
現代における評価と影響
「Waltz For Debby」は現在も多くの演奏家のレパートリーに定着し、ジャズ教育やセッションでも頻出する。3/4拍子の歌心と高度な和声が両立する教材として価値が高く、ピアノ・トリオの語法を学ぶ上での基準曲となっている。録音も世代を超えて更新され、スタンダードとしての生命力を保ち続けている。
まとめ
叙情的な旋律、精緻な和声、対話的なアンサンブル——「Waltz For Debby」はビル・エヴァンス芸術の精髄を体現する一曲である。1956年の誕生から現在に至るまで、インストとボーカルの両面で愛奏され、ジャズ史における普遍的価値を確立した。