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I Kiss Your Hand, Madame (奥様お手をどうぞ)
- 作曲: ERWIN RALPH

I Kiss Your Hand, Madame (奥様お手をどうぞ) - 楽譜サンプル
I Kiss Your Hand, Madame (奥様お手をどうぞ)|歌詞の意味と歴史
基本情報
「I Kiss Your Hand, Madame(奥様お手をどうぞ)」は、作曲ERWIN RALPHによる1920年代のポピュラー・ソング。ドイツ語原題は「Ich küsse Ihre Hand, Madame」とされ、欧州で広く親しまれた。作詞者は情報不明だが、ドイツ語版と英語版が流通し、国や言語によって歌詞表現に差異が見られる。日本では邦題「奥様お手をどうぞ」で知られ、上品でノスタルジックな響きを持つ小唄として定着。円熟した歌唱やサロン的な伴奏と相性が良く、声楽家からポピュラー歌手まで幅広く取り上げられてきた。
歌詞のテーマと意味
歌詞の核は、ヨーロッパ的な礼節と憧憬。相手を“Madame”と呼び、手の甲に口づけする儀礼的な所作を通じて、敬意と洗練された恋情を表す。直接的な情熱ではなく、距離を保ちながらも相手を賛美するエレガンスが基調で、言葉選びや比喩に古典的な気品が漂う。したがって、物語性というより“場面の空気”を描く歌であり、サロンや舞踏会の光景、香水やシャンデリアのきらめきまで想起させる。聴き手は、過剰なドラマではなく控えめな情緒と作法美に耳を澄ますのが魅力となる。
歴史的背景
本曲は第一次大戦後の欧州、サロン文化と都市娯楽が花開いた時期に登場した。グラモフォンとラジオが普及し、歌曲やダンス音楽が大衆へ浸透していくなか、都会的洗練と軽やかなロマンが歓迎されたのである。サイレントからトーキーへ移行する映画界でも、抒情的な主題歌を持つ作品が人気を博し、本曲もその文脈で認知を拡大した。英語詞版の流通により欧州外にも広がり、舞台やキャバレー、ホテルのラウンジなど“社交の場”に似つかわしいレパートリーとして息長く歌われた。
有名な演奏・映画での使用
リリース当初からテノールやバリトン系の歌手が愛唱し、格調あるフレージングで録音を残している。特にリヒャルト・タウバーの名唱は広く知られ、曲の代表的イメージ形成に寄与したとされる。また、同名のドイツ映画で印象的に用いられた記録があり、銀幕と楽曲の相互作用が人気の後押しとなった。以降も多くの歌手・アンサンブルがカバーし、ジャズやクロスオーバー風のアレンジも行われたが、個別の使用作品や年次の詳細には情報不明の点が残る。
現代における評価と影響
現在もキャバレー、シャンソン寄りのステージ、クラシカル・クロスオーバーのコンサートで定番曲のひとつ。直截な激情ではなく、言葉と間合いで魅せる“礼節のロマンス”は、ヴィンテージ志向やヨーロッパ回帰のトレンドとも親和性が高い。映像では、時代感や上流の雰囲気を醸す挿入曲として選ばれることがあり、音楽史の教育現場でも、戦間期ポピュラーの好例として取り上げられる。旋律の歌いやすさと語り口の美学が、時代を超えて価値を保っている。
まとめ
「奥様お手をどうぞ」は、作法と恋情を洗練の筆致で描いた戦間期の名歌である。華美に走らず余白で魅せる語り口、サロンの空気を運ぶ旋律、そして時代が変わっても通用する上品なロマンが、長寿命の理由だ。出自や細部に情報不明の部分はあるものの、欧州発の気品あるポピュラーとして確かな存在感を保ち続け、今日も多様な歌手・編成に受け継がれている。