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All Blues
- 作曲: DAVIS MILES

All Blues - 楽譜サンプル
All Blues|楽曲の特徴と歴史
基本情報
All Bluesは、マイルス・デイヴィス作曲によるジャズ・スタンダードで、1959年のアルバム『Kind of Blue』に収録された代表曲の一つ。形式は12小節ブルースだが、従来の機能和声よりも音階的発想を重視する“モード・ジャズ”の文脈で書かれている。拍子は6/8で、ミディアム・テンポのしなやかなスウィングが基調。初演録音はニューヨークのコロムビア30丁目スタジオで行われ、トランペットのデイヴィス、テナーのジョン・コルトレーン、アルトのキャノンボール・アダレイ、ピアノのビル・エヴァンス、ベースのポール・チェンバース、ドラムのジミー・コブという黄金メンバーが参加した。
音楽的特徴と演奏スタイル
曲頭を特徴づけるのは、ベースのオスティナートとホーン・セクションのコール&レスポンスによる簡潔なリフ。12小節ブルースの枠組みを持ちながら、コードの細かな転換よりもスケール上の自由度を活かしたソロ展開が可能で、音数を抑えたフレーズでも深いグルーヴを生む。6/8のうねりに乗せ、ピアノは開放的なボイシングで空間を確保し、ドラムはブラシやシンバル・ワークで立体感を与えるのが定石。ライブでは4/4への倍テンやリフの拡張など多様な解釈が見られるが、基本は“少ない音で歌う”ことに価値が置かれる。
歴史的背景
1959年の『Kind of Blue』は、ビバップ以降の複雑化したコード進行に対して、よりシンプルな土台で創造性を引き出すモード・ジャズを提示した歴史的アルバム。All Bluesはその理念をブルース形式に落とし込み、伝統と革新を架橋した。セッションは綿密なリハーサルよりもアイデアの“スケッチ”を共有して臨む手法がとられ、即興の鮮度が作品価値の核心となった。本曲は、そのコンセプトを最も親しみやすい形で体現したナンバーとして位置づけられる。
有名な演奏・録音
決定的名演は、初出盤『Kind of Blue』におけるオリジナル録音。以降、デイヴィス自身のライブでも定番曲として長く取り上げられ、多くのジャズ・ミュージシャンがコンボからビッグバンドまで様々な編成で録音・演奏してきた。また、後年にはオスカー・ブラウン・ジュニアによって歌詞が付けられ、ボーカル・バージョンも誕生。インストからボーカルまで幅広くカバーされることで、スタンダードとしての普遍性が一層強まった。
現代における評価と影響
All Bluesは、セッション現場や音楽教育での必修曲として定着し、モーダルなアプローチを学ぶ格好の教材となっている。6/8のグルーヴ、12小節ブルースの骨格、シンプルなリフという三要素が、即興の自由と聴きやすさを高い水準で両立。編成やテンポ、ハーモニーの厚みを柔軟に変えられるため、アレンジ面でも応用範囲が広い。今日でも新録が絶えず、世代や地域を超えて演奏されることで、モード・ジャズの入口かつ永続的なレパートリーとしての評価を保ち続けている。
まとめ
All Bluesは、伝統的な12小節ブルースにモード・ジャズの思想を融合し、最小限の素材から最大の表現を引き出す名曲である。6/8の推進力、反復するリフ、開放的な即興という三位一体の設計により、初心者にも取っつきやすく、達人には深い探求の余地を与える。初演から今日に至るまで、録音・演奏・教育の各現場で生き続ける、その普遍性こそが本曲の真価と言える。