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Moment's Notice
- 作曲: COLTRANE JOHN

Moment's Notice - 楽譜サンプル
Moment's Notice|楽曲の特徴と歴史
基本情報
ジョン・コルトレーン作曲の「Moment's Notice」は、1957年の名盤『Blue Train』(Blue Note)に収録されたハード・バップ期の代表的インストゥルメンタル。初出録音はコルトレーン(ts)、リー・モーガン(tp)、カーティス・フラー(tb)、ケニー・ドリュー(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)によるセクステット。以後、セッション定番として広く演奏され、ジャズ・スタンダードとして定着した。
音楽的特徴と演奏スタイル
最大の特徴は、短いII-V連鎖と急速な転調が連続する高度なハーモニー運動。角張った主題はビバップ語法を土台にしつつ、非ダイアトニックな進行が即興者に精密なヴォイスリーディングとガイドトーン把握を要求する。ソロでは、アルペジオ分解、アプローチ・ノート、クロマティック接続、ペンタトニックの上位和音化などが効果的。リズム・セクションは明確なカデンツを示すコンピングと、推進力のあるスウィング・フィールが鍵となる。
歴史的背景
1957年は、コルトレーンがハード・バップの文法を拡張し、自身の言語を確立していった過渡期。『Blue Train』は彼のブルーノート唯一のリーダー作で、端正な編曲とソロの濃密さが両立する。同年、彼はセロニアス・モンクとの共演を通じて和声的洞察を深めたことでも知られ、複雑な進行を持つ本曲の登場は、その探究の只中に位置づけられる。録音年は1957年で、初出アルバム収録という形で世に出た。
有名な演奏・録音
決定的名演はオリジナルの『Blue Train』収録テイク。冒頭のテーマ提示から、管のユニゾンとハーモニーの切れ味、各奏者のソロ構築まで完成度が高い。以後、多数のジャズ・ミュージシャンが取り上げ、コンボはもとよりビッグバンド用の編曲も生まれたが、代表的再演の網羅的一覧は情報不明。出版物やフェイクブック収載により、標準曲としての地位が固まっている。
現代における評価と影響
今日では上級者向けセッションの常連曲であり、音大・専門学校のアンサンブルや即興実技の教材としても扱われる。テンポ選択やイントロの扱い、ソロ後のコーダ処理など、アレンジの自由度が高く、各バンドの解釈が色濃く出る点も魅力。難度は高いが、和声感とライン構築を鍛える題材としての評価は非常に高い。プロの現場でも、即応力と耳の良さを試すリトマス試験紙のような役割を担っている。
まとめ
「Moment's Notice」は、ハード・バップの洗練とコルトレーンの和声探究が結晶した難曲にして名曲。複雑な進行ながら明快な躍動を保つ構造は、学習者にもプロにも挑戦しがいがある。オリジナル録音を基点に、自身の語彙で再解釈することで、楽曲の本質—瞬時の判断と確かな耳—が見えてくる。スタンダードとしての寿命を支える普遍性は、今なお第一線で証明され続けている。