In A Sentimental Mood
- 作曲: ELLINGTON DUKE

In A Sentimental Mood - 楽譜サンプル
In A Sentimental Mood|楽曲の特徴と歴史
基本情報
『In A Sentimental Mood』は、デューク・エリントンが1935年に作曲したジャズ・バラード。作詞はアーヴィング・ミルズとマニー・カーツによる。器楽曲としても歌唱曲としても親しまれ、今日では不動のジャズ・スタンダードとして定着している。原題が示す“感傷的な気分”を核に、静謐な導入から豊かな歌心へと移ろう流れが魅力。テンポやキーは演奏者により異なるが、一般にスローバラードとして演奏される。
音楽的特徴と演奏スタイル
大きな弧を描くメロディと、柔らかな半音進行を含む洗練された和声が特徴。ピアノのアルペジオやサステイン豊かなホーンが情感を支え、ルバートのイントロや間合いを活かした歌い回しが好まれる。ヴォーカルでは語りかけるようなフレージングが映え、器楽ではテナーサックスやトランペットの抒情的ソロが定番。ダイナミクスの幅を丁寧に設計すると、終盤の再現部で一層の深みが生まれる。
歴史的背景
1930年代スウィング期に登場した本曲は、エリントンの成熟した作曲・編曲手腕を示す代表的バラードとして受け入れられた。発表後まもなくラジオやダンスホールを通じて広がり、ビッグバンドのみならず小編成のコンボにも取り上げられていく。出版年は1935年とされ、以後のジャズ史で“叙情性を体現するスタンダード”の地位を揺るぎないものにした。
有名な演奏・録音
代表的録音には、エリントン楽団による1935年の初期録音がある。さらに1962年、ジョン・コルトレーンとエリントンの共演盤『Duke Ellington & John Coltrane』でのしっとりとした解釈は、世代を超えて参照される決定的名演として知られる。以後、数多くの歌手と器楽奏者が多様なテンポや編成で録音し、楽曲の解釈を豊かにしてきた。特定の映画での使用に関しては情報不明。
現代における評価と影響
本曲は教育現場やセッションの“バラード入門”としても定番で、メロディの歌い方、ダイナミクス、間合いの設計を学ぶ題材として重宝される。和声の懐が深く、デュオからビッグバンドまで自在にアレンジ可能で、演奏者の音色やタッチの差がそのまま表現の個性として表れる。今日でも録音・配信・コンサートのプログラムに頻繁に登場し、ジャズのロマンティシズムを象徴する一曲として高評価を保っている。
まとめ
『In A Sentimental Mood』は、簡潔で記憶に残る旋律と滋味深い和声が融合したジャズ・バラードの金字塔である。1935年の誕生以来、エリントン自身の録音からコルトレーンとの共演に至るまで数多の名演が生まれ、器楽・歌唱の両面で魅力を放ち続けている。聴き手の感情に寄り添う普遍性が、今なおスタンダードとして演奏される最大の理由だ。