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Here's That Rainy Day
- 作曲: VAN HEUSEN JIMMY

Here's That Rainy Day - 楽譜サンプル
Here's That Rainy Day|楽曲の特徴と歴史
基本情報
Here's That Rainy Dayは、作曲ジミー・ヴァン・ヒューゼン、作詞ジョニー・バークによる1953年の楽曲。ブロードウェイ・ミュージカル「Carnival in Flanders」で初披露され、舞台は短命ながら曲は独り立ちして普及した。形式は32小節のAABA。失恋と後悔を雨に喩える普遍的なテーマが、歌唱・器楽の両面で愛され、現在では有数のジャズ・スタンダードとして定番レパートリーに数えられる。
音楽的特徴と演奏スタイル
しっとりしたバラードに分類され、穏やかな旋律に対して内声が半音階的に下降する“ライン・クリシェ”が印象的。豊かなセカンダリー・ドミナントや代理和音が用いられ、メジャーとマイナーの陰影が交錯する。歌手は言葉の間合いと語り口を重視し、冒頭をルバートで始める解釈も多い。インストではテンポを落としたバラードや、軽いボサノヴァへの置換も一般的。リハーモナイズの余地が広く、内声処理や終止の曖昧化で余情を強める手法がよく採られる。
歴史的背景
本作はヴァン・ヒューゼンとバークの名コンビが手がけ、1950年代のアメリカン・ソングブックを代表する楽曲群の一角を成す。初演の舞台自体は早期にクローズしたが、劇中歌としての文脈を越えてレコード時代に浸透。ラジオやクラブ文化の拡大とともに、歌手・ジャズ奏者の必修曲として広がり、セッション現場での共通言語となっていった。
有名な演奏・録音
ボーカルではフランク・シナトラの気品ある解釈が広く知られ、トニー・ベネットらも取り上げている。インストではビル・エヴァンスの情感豊かなピアノ・トリオ演奏、ウェス・モンゴメリーによるギターとストリングスの洗練、スタン・ゲッツのサックスによるリリカルな歌心、チェット・ベイカーの繊細なフレージングなど、多彩な名演が残る。いずれもメロディの余白を生かし、和声の陰影を丁寧に描く点が共通項だ。
現代における評価と影響
ジャズ教育の現場では、バラード・タイムの運び方、内声進行の聴き取り、歌詞の情景とフレージングの一致を学ぶ格好の教材として扱われる。リアルブック等の標準譜面集にも収録され、セッションでも高頻度で演奏される。録音・配信時代になっても新録が途切れず、世代や楽器編成を超えて再解釈が続くことで、スタンダードとしての生命力を更新し続けている。
まとめ
Here's That Rainy Dayは、洗練された和声と普遍的な失恋の比喩が結びついた名曲。劇場発の出自を超え、歌・器楽双方で磨かれた多面的な魅力を持つ。初学者から熟練者まで、表現と和声理解を深められる一曲として今後も演奏され続けるだろう。